新聞に9歳の子が「『しょうがい者』は言われた人が嫌だから言い換えよう」と投稿し、ある医師が分かりやすい言葉で返していた。多くの障害児を診てきた医師は「子どもと社会の間に『壁』『障害』があるから障害児と呼ばれているんだ」と説明。「障害は人ではなく社会に対する言葉で、その壁は私たちの心の中にもある。そうした壁を全て取り除いた時、『しょうがい者』という言葉はいらなくなり、ぜんぜん違う言葉に変わるかもしれない」と答えた。
 日本で障害者手帳を所持する視覚障害者は31万人前後で推移し、高齢化が進んでいる。糖尿病網膜症が原因で年間3000人が失明するなど中途失明者もいる。近年、こうした人たちの駅ホーム転落や列車との接触事故が後を絶たない。
 京セラはスマート白杖とRFIDタグを用い、視覚障害者の歩行を支援するシステムの実用化を進めている。駅ホームなどにタグを設置し、杖先端部のRFIDリーダーの受信範囲に入ると、杖に内蔵したバイブレーターの振動と、スピーカーやスマートフォンの音声で危険地帯への接近を知らせるものだ。
 駅への導入が進むホームドアに比べコストを抑えることができ、既存の駅に設置する際に課題となる構造的な問題の影響も受けにくい。京セラが横浜市のみなとみらいリサーチセンターで開催中の体験会も盛況で、多くの人に注目されている。まだ課題もあるが、体験者の声も反映しながら実用化し、3年以内の社会実装を目指すという。
 スマート白杖の試作に協力したキザキは、スキーやトレッキング用ポールのメーカー。視覚障害を持つ子供に合った白杖がないことを知り、大人よりも筋力が弱い子供のため、長さや重さ、グリップ形状などを工夫した専用の白杖を開発している。木﨑秀臣社長は「人により最適な長さや重量、バランスなどが異なるため使いやすい白杖を作るのは難しい」と話す。
 スマート白杖の開発に協力している金沢大学人間社会学域学校教育学類の吉岡学主任研究員は、白杖に適した素材の登場に期待する。白杖のグリップは数十年間、ずっとゴルフクラブと同じ素材が使われたまま。持つ時に滑りやすい、冬場に冷たいなどの課題がある。杖の先端部は擦り減りやすく頻繁に交換するが、専門の人が安全に使えるか確認する必要があるという。
 オリンピック・パラリンピックを控えてスポーツ関連の新素材が注目されている。化学をはじめ素材産業には、社会との壁をなくすことにも関心を持ち、新たな素材の開発に積極的に取り組んで欲しい。

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