環境問題への関心の高まりやヴィーガン(完全菜食主義者)実践者の増加、あるいは宗教上の理由などを背景として、環境に優しい化粧品原料が注目されている。海外を中心に、これまでのウシやブタ、海洋生物などの生物由来から他の原材料へ移行するケースがみられ今後、動物由来の素材・原料を使用しないという流れが大きくなることが予測される。化粧品原料を取り扱っている化学品商社でも同様の動きが出始めている。

 例えば三井化学ファインは、2020年末から化粧品原料として酵母由来のコラーゲンの販売を始めている。これまで販売していたブタなど動物由来の原料では、環境規制が厳しい欧州など海外市場での展開が困難となってきた。日本でも、その傾向が強まると予測されることから非動物由来のコラーゲンを確保した。現在、中国から調達しており、21年度からは一定数量の確保に努めるとしている。今後の海外展開拡大を狙い現在、ヴィーガン認証の取得も目指しており、取得後にはヴィーガンに対応した美容液など各種化粧品の原材料としての提供を見込んでいる。

 一方、昭光通商は、バニラ風味の主要成分であるバニリンの用途開拓を進めるなかで、化粧品市場への展開を視野に入れている。同社が扱っているリグニンバニリンは、天然物であるマツ科の常緑針葉樹のトウヒから製造されている。この樹木由来のバニリンは石油由来の合成品とは異なり、香りが豊かなことに加え、リニューアブル(再生可能)かつサステナブル(持続可能)。環境に配慮した製品であるのが特徴だ。

 バニリンは、日本国内ではアイスクリームやチョコレートなど食品用を中心とする嗜好品の香料としての利用が多い。直近では新型コロナウイルスの感染者増加の影響で、これらの需要が減少する一方、米国や中国など海外ではバニリンが持つ抗菌作用が評価され、天然由来の防腐剤として化粧品向け需要が好調だという。このような理由によってバニリンの価格は世界的に上昇傾向にある。昭光通商はリグニンバニリンについて、これまでの食品用途に加え新たな市場の探索を進めており、その一つとして化粧品市場の開拓を見込んでいる。

 環境負荷の低減は、あらゆる企業にとって避けて通れない課題である。それに対する真摯な取り組みこそがグローバル市場で事業展開を進める商社にとっても、規模の大小を問わず重要なことになるだろう。今後、環境保護に配慮した原材料の投入などの試みが増えていくのを期待したい。

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