国内で浮体式洋上風力発電の導入の動きが一段と活発化している。国土交通省はこのほど、有浮体式洋上風力発電施設の安全性確保を目的とした技術基準を改正し、損傷時の復元性に関する条件を緩和した。建造・設置などのコスト低減を可能とする今回の措置により、普及が進むことを期待したい。
 2018年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーの一つとして風力発電を積極的に推進する方針が打ち出された。日本は風力発電の設置に適した陸地面積は限られるため、洋上風力発電への期待は大きい。
 洋上風力は基礎を海底に固定する着床式と設備を浮かべる浮体式に大別される。浅い水深の多い欧州では着床式の導入が進展。一方、世界第6位の排他的経済水域を有する海洋大国の日本は、着床式に適した浅い海域が限られ、深い海域が広がっているために浮体式の導入ポテンシャルが高いとされる。
 こうしたなかで環境省、経済産業省・資源エネルギー庁によって浮体式洋上風力発電施設の実証研究および事業化が進められ、技術的にも世界をリードしてきた。ただ商用化には建設・設置などのコスト低減が大きな課題だった。
 国交省は、船舶安全法に基づいて浮体式洋上風力発電施設の安全性を確保している。18年からは産学の有識者らで構成する検討会で、安全性を確保しながら浮体構造や設置方法の簡素化などを実現するための安全性評価手法を検討してきた。
 今回の技術基準改正では、船舶の衝突などで浸水が生じる確率が一定以下、あるいは係留ラインからの反力を受ける個所などへの浸水について適切な対応がとられていることを条件に、損傷時復原性にかかわる要件を緩和できる規定を追加した。また19年に発効した最新の洋上風力発電施設に係る国際電気標準会議(IEC)国際標準などを踏まえ、設置海域の気象海象シミュレーションを基に、風力発電施設への負荷を解析評価する設計荷重ケースを一部見直した。今月3日から適用されており、設計条件および荷重ケースについては当分の間、改正前の基準によるものとした。
 世界的な脱炭素化の流れのなかで、風力発電が中長期的に需要増大の見込まれる有望分野であるのは間違いない。今回の技術基準の改正は、浮体式洋上風力発電施設の建設・設置コスト低減につながると期待される。ただ普及を果たすには、陸上への送電、台風などの自然災害によるリスクへの対策など、いぜん多くの課題を乗り越える必要がある。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る