菅首相は、先の所信表明演説において2050年に温暖化ガス排出の実質ゼロを目指す方針を打ち出した。見直しが進められているエネルギー基本計画では、現行で22~24%とされている再生可能エネルギーの電源構成比率を、さらに引き上げる方向とされる。再エネでは、適地が少なくなった太陽光発電や燃料確保に課題があるバイオマス発電に対して、洋上風力発電が最もポテンシャルが大きいと期待されている。ただサプライチェーンの構築やビジネスモデルの確立など課題は多い。

 政府は洋上風力発電の産業競争力強化に向けた官民協議会を設置し、7月17日に第1回会合を開催している。詳細な検討は作業部会で議論され、年内に開催される第2回会合で報告されることになっている。

 梶山経済産業大臣は第1回会合で「当面10年間は年に100万キロワット、40年にかけては3000万キロワットを超える規模の見通しがあれば思い切った投資ができる」と、あいさつした。業界、事業者からは洋上風力関連産業の誘致や、直流送電も含めた系統、港湾などのインフラ整備が必要との意見が出た。

 洋上風力は遠浅が続く北海で整備が進んでおり、欧州には産業セクターが形成されている。一方、日本は実証段階から実用化段階へとようやく移りつつある状況で、19年4月に施行された再エネ海域利用法に基づき、促進区域として長崎県五島市沖など4区域が指定されたところだ。

 海に囲まれている日本は「中長期的には9100万キロワットの導入ポテンシャルがある」(日本風力発電協会)とされ「洋上風力100万キロワット当たり直接投資は約5500億円、2次波及効果まで含めると約1・2兆円」(三菱総研)との経済効果が試算されている。

 一方で中核部材である風車製造は、日立製作所が撤退したことにより、欧企業と三菱重工の合弁であるMHIヴェスタスの1社しかない。建設工事に不可欠な作業船(SEP船)は大手ゼネコンなどにより国産化の動きはあるものの、導入目標の実現には、まったく足りない数でしかない。

 海外では、国内企業育成のために一定割合の現地調達を求める「ローカルコンテント」を課す例もあるが、それにこだわりすぎて日本における市場形成、ひいては洋上風力の導入を遅らせることになってはならない。温暖化ガス排出削減を最優先課題と位置づけ、コスト競争力に勝る海外企業を誘致して、まず市場を形成し、事業ノウハウを蓄積することが新産業創出につながると考えるべきだ。

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