管首相が2050年の温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロに向けて、30年度の排出量を13年度比46%減する新たな目標を世界に発信した。これまでの目標を7割以上引き上げたもので達成は決して容易ではない。しかし国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、50年に実質ゼロとするには30年までに10年比45%削減する必要があるとしている。今後約10年の取り組みが地球の命運を決める。革新的技術を待っている余裕はない。再生可能エネルギーの導入拡大は重要だが、万能ではない。すでに商用段階にあるCCS(CO2回収・貯留)の拡大を急ぐべきだ。

 国際的シンクタンクのグローバルCCSインスティテュートによると、現在商業運転しているCCSは世界に26基あり、最も古いものは1972年から操業を続けている。建設・開発段階にあるものは37基に上る。
 エクソンモービルは今年2月にCCS事業化のための新会社を設立した。すでに米国、オーストラリア、カタールで実績があるが、25年までに30億ドル(約3150億円)投資し、世界で20件以上のプロジェクトに取り組む。

 欧州最大の石油化学工業集積地であるベルギーのアントワープ港での計画も、その一つ。各工場が排出するCO2をパイプラインで集め、貯留地のオランダ・ロッテルダムへはパイプラインで、ノルウェー西岸へは船で輸送する。エクソンモービルのほかにBASF、イネオス、ボレアリス、エアリキード、トタル、フラクシスが参加している。30年までに、年間1800万トンのCO2排出量のある地域で半減を目指している。

 日本には貯留可能な地層は多く存在するものの、経済性や社会受容性が障害となっている。一方、東南アジアなどの近隣国には安価に貯留が可能な地層が多くある。日本政府は今後、資源戦略の一環として、東南アジアをはじめとする近隣国でCCSの適地確保に取り組む。CCSの拠点として東南アジアへの関心は高まっており、エクソンモービルにも、シンガポールにアジア太平洋地域のCCSハブを建設する構想がある。

 CCSは、水素社会の到来を早める力にもなる。水素の利用推進を目指す企業による国際組織である水素協議会は、30年までは化石燃料を原料とする「グレー水素」から排出するCO2を貯蔵した「ブルー水素」が牽引し、その後、再生可能エネルギーで水を電気分解して得られる「グリーン水素」の役割が増加させるシナリオが、最も導入コストを抑えられると試算している。

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