「東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会」(ゼロエミベイ)が6月に発足した。企業や大学、研究機関、行政機関の100近い機関が参加、連携を強化し、ベイエリアをCO2排出量実質ゼロへ向けた“ゼロエミ版シリコンバレー”とすることを目指す。コロナ禍で地球温暖化対策の減速が懸念されるなか、ゼロエミベイそして日本の果たす役割に期待したい。

 東京湾岸には電力やガス、石油など多様なエネルギーのサプライヤーと、化学や電気、自動車などのユーザーの多くが研究所や工場を構える。研究機関や大学も多数存在する。これらの機関が研究開発から実証実験、ビジネスなどで連携すればゼロエミ技術に関する世界初のイノベーション拠点となり得る。政府が「革新的環境イノベーション戦略」で打ち出した、この構想を具体化するために設立されたのがゼロエミベイだ。

 会長を務める柏木孝夫東京工業大学特命教授・名誉教授は、6月16日の第1回総会後の会見で「パリ協定の目標は極めてチャレンジングだが、避けては通れない。日本を代表する企業が集積する東京湾岸からシステムインテグレーション的なテクノロジーを発信していくことは、世界に与えるインパクトが大きい」と協議会の意義を語った。今後、ワーキンググループの設置などを通じ会員間の連携を強化し、活動を本格化する。

 一方、コロナ禍におけるロックダウンや移動制限の影響で、世界の温室効果ガス(GHG)排出量が減ったという報告も相次いでいる。その削減幅は数%から十数%になるといわれる。パリ協定の目標を満足させるものではないが、人の行動の変化によってGHGが減ったという事実は大きく注目された。

 経済活動が再開されていることを考えれば、排出量削減は一時的なもの。大きなリバウンドも心配されるなか、クリーンエネルギーへの投資拡大など、コロナ後の経済回復を脱炭素化の契機にしようという声が高まっている。パリ協定の達成にはイノベーションが不可欠だが、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の導入拡大、水素社会の構築などにより、経済回復とGHG排出量削減を一定程度両立することは可能だろう。

 11月に英国グラスゴーで開催予定だった気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の1年延期が決まった。パリ協定への大きな影響も懸念されているが、それまでの間に地球温暖化対策のニューノーマルは何か、それを実現するイノベーションは何かを考えたい。ゼロエミベイは、その検討・実証を行う機関としても相応しい。

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