16年もの長きにわたりドイツの首相を務め、欧州で強いリーダーシップを発揮してきたメルケル氏の後任を決めるべく、同国下院にあたる連邦議会選挙が26日に行われた。連立政権を担う二大政党の中道左派「社会民主党」、メルケル首相の中道右派「キリスト教民主・社会同盟」など、いずれの党も単独過半数を獲得できず、今後は連立交渉が焦点となる。政策の違いで協議は難航が予想され、とりわけ政府の気候変動対策が不十分と批判する「緑の党」の取り組み次第で環境政策が大きく転換する可能性をはらむ。

 選挙戦で台風の目となったのが環境政策を重視する野党の緑の党だ。同党は選挙公約で、カーボンニュートラルの実現を政府目標の2045年から前倒しするとし、30年までに温室効果ガス(GHG)の排出量を1990年比70%減と、現在の気候保護法より削減幅を5ポイントも上乗せした。35年に発電を全て再生可能エネルギーに転換するとし、石炭火力発電所についても現政権より8年早い30年までの全廃をマニフェストに掲げた。

 交通・運輸政策でも野心的な目標を挙げた。30年までにガソリンやディーゼルエンジンの新車販売の完全禁止や、航空機の国内短距離路線の廃止、高速道路の時速130キロメートルまでの速度制限などの政策を相次ぎ打ち出している。

 公共放送ARDの世論調査では、有権者の関心事は「環境・気候変動対策」がトップで、移民政策や新型コロナ対策、社会的不公正などを上回った。ドイツでは今年7月、西部で大雨による洪水で180人以上が亡くなるなど、気候変動・地球温暖化の影響が顕著に表れ、若い有権者ほど気候問題が一過性ではない危機と認識し、緑の党の支持に回ったとみられる。

 二大政党が掲げる環境規制は緑の党と比べ穏便で、キリスト教民主・社会同盟のラシェット党首は、緑の党の政策が経済成長に足かせになり、産業界に悪影響を与えると言及。社会民主党のショルツ氏も、雇用創出と合わせて気候変動対策を進めるとの慎重姿勢を示してきた。また連立入りの可能性のある自由民主党は、自由経済重視の小さな政府を標榜しており、環境規制強化を指向する緑の党の政策と相いれない部分も大きい。

 17年の前回選挙後においてもメルケル首相が率いて第一党となったキリスト教民主・社会同盟は難民政策などを巡って意見が対立し、多数派工作は難航した。ドイツの政策が欧州域内に与える影響は大きい。新たな連立政権の組み方次第ではドイツの環境規制が厳格化する可能性があり、欧州でビジネス展開する日本企業も注視が必要だ。

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