東レが今後10年間を見据えた長期経営ビジョン「TORAY VISION 2030」を発表した。2030年までのグローバルな環境変化として、地球環境問題への意識の高まりや循環型社会の形成、長寿社会、デジタル社会の進展などが想定されている。この変化に対応するため、グリーンイノベーション(GR)とライフイノベーション(LI)の両事業を中心に社会的な課題解決に貢献するとした。
 同ビジョンにおける売上高・売上収益の目標はGRが13年度比4倍、LIが同6倍。両事業の目標値の合計だけで19年度の連結売り上げ見通しとなる2兆2500億円を上回る。
 確かに意欲的な目標だが、日覺昭廣社長の下、過去10年間で1兆円の売り上げを伸ばした実績を考えれば、十分に達成可能な数値だろう。しかし、それ以上にインパクトが大きいのが環境対策目標だ。CO2削減貢献量を同8倍、水処理貢献量を同3倍、生産活動による用水使用量の売上高・売上収益原単位を同30%削減するという。
 東レが祖業とする繊維は、染色などの工程が必要なため、他の産業に比べ水の使用量が多いことで知られる。この改善に向け、産業全体で「乾いたぞうきんから、さらに水を搾るような努力を重ねてきた」(繊維メーカー幹部)歴史がある。水処理システムの性能が向上したとはいえ、東レの掲げた目標は「アグレッシブな挑戦」(同)であり、舌を巻かざるを得ない。
 この東レの環境対策のキーになりそうなのが、バイオマス燃料と排水リサイクルだ。従来は石炭で自家ボイラーを稼働させていたが、下水汚泥と建築廃材を混焼したバイオマス燃料の使用拡大を進めるという。また用水使用量の削減に向けては、東レが持つ排水処理技術を活用。貯槽した工場排水を処理し、水質調整した後に再び製造工程で活用する取り組みを、さまざまな製造拠点に導入する。繊維に限らず、すべての拠点で省エネ活動を進めながら、改善事例の相互水平展開を図る考えだ。
 また長期ビジョンと同時に発表した3カ年の中期経営課題では、繊維と機能性化成品の事業で「サスティナビリティへの対応」を基本方針に掲げた点も注目される。繊維業界は現在、リサイクル材の使用だけでなく、生産段階からエコが求められる時代に突入している。製品はもちろん製造面からもエコの徹底を図ろうとする今回の表明は、繊維素材のトップメーカーとしての世界に向けての明確な決意表明だと見て取れる。東レが実践する、これからの環境対応に注目したい。

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