日本化学工業協会がこのほど「廃プラスチックのケミカルリサイクルに対する化学産業のあるべき姿」を策定した。発表に当たり森川宏平会長(昭和電工社長)は「ケミカルリサイクル(CR)や人工光合成など、私が学生だった数十年前から技術としてはあった。なぜ社会実装されないのか。コストなど個社では不可能だからだ」と強調。業界の枠を越え、オールジャパンで取り組む必要性を訴えた。社会実装には法改正など乗り越えねばならない課題は多い。循環型社会を目指す以上、政府は民間任せの姿勢を改める必要がある。資源循環に不可欠で、世界をリードできる可能性のあるCR技術の社会実装に向け、国を挙げて機運を醸成し、基盤を整備していくべきだ。

 CRは廃プラスチックを化学原料まで戻す技術で、品質劣化なく資源循環に戻せる唯一の手法。日化協は「廃プラスチックは貴重な国産資源」との認識の下、モノマー化、ガス化、油化といった循環型CRを目指すべき方向性として示し、定量目標も定めている。

 政府は、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにする目標を打ち出した。これまでのようなGHG削減だけでは到底ゼロにすることはできず、革新的なイノベーションが不可欠となる。いずれにしても目指すのは循環型社会であり、それに不可欠なCR技術の開発は、化学企業が個社または他社と連携して加速している段階。しかし問題は、いかに社会実装し、コストを下げることができるかにある。

 社会実装には法改正が必要なケースが多い。例えば廃棄物は排出された都道府県内で処理することが義務付けられている。CRの社会実装にとって原料の廃プラをいかに確保できるかが第一の関門であり、技術が完成しても原料を効率的に回収・輸送できなければ実現しない。

 政府はカーボンニュートラルを高らかに宣言したが、民間頼みの姿勢では画餅に帰す恐れがある。再生可能エネルギーや原発を、どう政策的に位置付けて動かしていくのか、カーボンリサイクルやCRの社会実装を、どう進めていくのか、大局的・総合的な議論が欠けているように映る。単に海外の投資家などを意識したプロパガンダに終わらせてはならない。

 早期に絵を描き、社会実装できれば、ジャパンモデルとして技術輸出するなど世界をリードできるチャンスが広がる。CRなどの技術開発は世界的に緒に就いたばかりだが、欧州ではエネルギー政策も絡んで社会実装が急進展する可能性もある。政府の本気度が問われている。

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