染料大手のダイスターが発足から25年を迎えた。同社の発足はドイツ化学企業の再編の一つとして記憶に残る。同時に、時代の変化に対応するための化学企業の大胆な選択の先例にも位置づけられる。

 ダイスターは1995年7月1日、ヘキストとバイエルの繊維用染料事業を統合してスタート。2000年にはBASFの事業が加わった。バイエルとヘキストがそれぞれ35%、BASFが30%を出資する、まさにドイツ企業の連合体である。

 ただ事業の中身はドイツ企業だけではない。ヘキストやBASFと組んでいた日本企業の事業も統合の対象になり、旧三菱化成工業や旧三井東圧化学の関連事業をダイスターが受け継いだ。さらに1996年にはBASFが旧ICIの事業を買収している。英国企業の事業まで継承したことは、染料産業の変化の激しさを物語っている。

 こうしてみると染料市場を席巻していたのは欧州企業であることが改めて分かる。そして各社ともアジアへの市場の移行、新興企業の台頭などを背景に、それまでとは異なるビジネスモデルの確立を迫られていたことが再編の背景にある。

 ダイスターの25年は順風満帆だったわけではない。流動資産が不足し、企業運営に支障をきたしたことから、2009年にはフランクフルトの地方裁判所にドイツ国内の事業活動と資産を対象に破産を申請した。企業存亡の危機にも直面したのである。10年には中国の浙江龍盛集団とインドのキリ・インダストリーズの傘下に入り、現在にいたっている。

 ダイスターに出資していたドイツ企業をルーツにする企業は多い。セラニーズやSGLカーボンはヘキストに、ランクセスやコベストロはバイエルに源流がある。クラリアントの事業の一部はヘキストから引き継いだものだ。いずれも社名は比較的新しいが事業の歴史は長い。例えば1937年にバイエルの研究所でオットー・バイエル博士が発明したポリウレタンは、コベストロの主力事業であり続けている。

 日本市場にも深く根を張っている。ランクセスの豊橋事業所では予備分散ゴム薬品「レノグラン」(Rhenogran)の製造が、このほど30周年を迎えている。

 各社の歴史と実績は誰もが認めるところ。紆余曲折がありながらも、新たな時代を切り開く取り組みは成功を収めてきたと思える。だが、将来にわたって同様の成果が約束されているわけではない。一段と厳しくなっている事業環境下、真価が問われ続ける。

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