新型コロナウイルスの感染拡大が3年目を迎えたが、その影響は今なお続く。こうした中で「アジア石油化学工業会議」(APIC)も2019年6月の台湾大会を最後に開催が途絶えている。APICは毎年、石油化学業界の関係者が一堂に会し、需給動向や環境問題といった、さまざまなテーマを議論する場として役割を果たしてきた。日本などアジア7カ国・地域が持ち回りで開催してきたが、長引くコロナ禍で、次回のインド大会は23年5月頃への延期が決まっている。

 開催の「空白期間」が4年に及ぶ事実は重い。コロナ禍に加え、ウクライナ侵攻が拍車を掛けた原燃料高騰も重なって世界の混乱は深まっている。さらに温室効果ガスの排出量を実質ゼロに抑えるカーボンニュートラル(CN)も不可逆的な流れになった。石化業界を取り巻く環境が揺さぶられ、大きく変わる中で、各国・地域のリーダーが発するメッセージは非常に重要な意味を持つはずだ。

 ただ新型コロナウイルスの変異が繰り返され、いまだ収束が見えない。従前なら1200人以上が集まったAPICの対面再開には多くの調整が必要になるだろう。またコロナ禍が収まっても、ロシア産原油の輸入という別の問題が浮上するインドで、素直に開催の運びとなるか疑問符も付く。石化需要を牽引するアジアの結束をつなぎ止めるためにも、慣例にとらわれず、オンライン開催を検討するなども一案ではないか。

 コロナ禍によって途絶えたままといえば、経済産業省の調査資料「世界の石油化学製品の需給動向」もそうだ。向こう数年の石化製品の需給や地域別の動向をまとめた資料で、石化業界関係者の注目度が高い。メーカーや商社などの専門家による各国・地域の分析がコロナ禍で難しいことが、再開が見通せない大きな理由とみられる。

 コロナ禍の逆風下、日本のナフサクラッカーの稼働率は今年5月に87・6%となるまで、2年にわたり好不況の目安となる90%台を維持してきた。だがCNの潮流により、CO2を多量に排出する従来型の石化産業は、持続可能性が見通しにくくなっている。にも関わらず、経産省は30年度時点のエチレン生産量の見通しを、現行の570万トンに据え置いたままだ。

 日本でも00年に翻訳版が出てベストセラーとなったビジネス書「チーズはどこへ消えた?」では、状況変化への対応力の重要性が平易な文章でつづられている。われわれ含め、変化の重要性を認識するためにも、石化産業の国際会議や基礎資料の再開を願ってやまない。

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