化学企業が事業の入れ替えを急いでいる。世界的にカーボンニュートラル(CN)が不可逆な潮流となり、2030年、50年とタイムラインが明確になったことが背景にある。日本国内での事業継続を前提とした場合、エネルギーをはじめ、さまざまなコストの上昇が見込まれる。国際競争を戦い抜くには、得意とする機能化学品の「稼ぐ力」に磨きをかけると同時に、コアではなくなった事業や競争優位性が低下している事業の整理を急がねばならない。CNに貢献する革新的なイノベーションを生み出しても、社会実装には時間を要し、投資もかさむ。企業は、収益力強化とCNへの対応を同時並行で進めなければ市場からの評価を失いかねない、厳しい局面に立たされている。

 化学産業は、生活に欠かせない資材をはじめ自動車、電子材料、医薬、食品など多様な産業に製品・技術を提供、鉄やセメントといった他の素材産業と一線を画している。勃興期は肥料や染料、その後は石油化学など、時代の要請に応じて柔軟に提供する製品や技術を進化させてきた。近年は半導体、ディスプレイ、電池といったエレクトロニクス分野や、医薬、農薬、医療機器などのライフサイエンス分野を中心に、M&Aも駆使して事業基盤を厚くし、付加価値の高いスペシャリティケミカルへのシフトを加速している。ただルーツが石化である場合も少なくない。

 石化産業では14年から16年の間に、核となるナフサクラッカーが15基から12基に削減され、エチレン生産能力は年700万トンから615万トンに減った。この結果、稼働率は高水準を継続。さらに、この間の市況上昇によって高収益を挙げたことで業界再編の機運は鳴りを潜めていた。

 そのなかで先ごろ、日本の石化産業再編をリードする考えを表明したのが三菱ケミカルホールディングスのジョンマーク・ギルソン社長だ。CNという大波が押し寄せるなか、CO2を多く排出し、将来的にエネルギーコストの上昇が見込まれる石化事業を、人口が減少し続け、市場縮小の恐れがある日本で継続するのは企業価値向上につながらない、という判断である。

 石油化学は、CO2削減に貢献する軽量・省エネ材料、食品ロスを減らす材料、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させて便利な生活を支える材料などを供給するエッセンシャル産業であることを忘れてはならない。既存の設備・技術をフル活用し、石油精製など他の産業とも連携しながら、CNに貢献する「炭素循環化学産業」へ変貌することが可能なはずだ。残された時間は多くはない。

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