化学企業の株価が大きく回復している。新型コロナウイルス感染拡大で業績が大きく落ち込む業種が少なくないなか、化学は相対的に落ち込みが小さいためだ。コロナ対策関連製品はもちろん、半導体向け材料など社会に欠かせないあらゆる材料を提供する多様性が背景にある。さらに事業再編機運が高まっている点も株価上昇を後押ししている。社会が大きく変わろうとするなか、化学産業は強みとする多様性を発揮し、社会が求める新たな技術や製品を生み出すため柔軟に事業を組み換え、再編を進める時を迎えている。

 ここにきて化学の株は、日経平均以上に値上がりしている銘柄が少なくない。三井化学が2018年半ば以来の高値圏にあるほか、住友化学、旭化成、積水化学工業など相次ぎコロナ前の水準に回復しつつある。

 総合化学は、多様な事業を展開していることが経営効率が悪いとみなされ、これまで市場から「コングロマリット・ディスカウント」と評価を下げられてきた。景気が良く、多くの業種の株価が高い時、こうした低い評価を受けることが多い。逆に景気が悪く、多くの業種が苦しむなかでも、化学は多様な産業へ材料を供給するため不況耐性が強く、市場からの評価が相対的に高まる傾向にある。

 実際、今回のコロナ禍でも、総合化学は昨年前半こそ影響を受けたものの後半に入ってからは回復し、影響を小さく押しとどめた格好にある。住友化学の岩田圭一社長は「ヘルスケアや電子材料など幅広い事業を展開する総合化学の多様性が、コロナ不況の抵抗力になっている」と話す。

 さらに株価を押し上げているのが事業再編機運の高まり。三井化学の橋本修社長は、市況に左右されやすい石油化学を展開する基盤素材事業について「これまでもボラティリティ改善に取り組んできたが十分でない。シェアや利益率の低い製品は、国内外の他社との連携も含め規模縮小や資産圧縮といった選択肢を検討する」考え。合成ゴムを祖業とし、国策会社として設立された経緯を持つJSRは、合成ゴム事業の売却も選択肢に「聖域なき構造改革」を推し進める方針だ。

 一方、これまでは日本の化学企業が高い世界シェアを保持してきたが、中国など新興勢の急速な追い上げで苦しい競争に陥っている製品もある。今後、デジタル技術の進歩や環境意識の高まりによって社会は大きく変貌していく。化学企業は自らの強みと成長領域を精査し、社会の変化を先取りできる体制へと柔軟に事業を組み換える必要に迫られている。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る