今月中にも「コーポレートガバナンス・コード」(企業の行動原則)が改訂される見込みだ。2022年4月に予定している東京証券取引所の市場構造改革で、より高い時価総額・市場流動性およびガバナンスを求める「プライム市場」が創設されることを受けてのもの。今後、プライム市場に上場する企業は、日本を代表とする投資対象としてふさわしい水準のガバナンスが要求されることになる。

 金融庁と東証が4月に発表した「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」では(1)取締役会の機能発揮(2)企業の中核人材の多様性の確保(3)サステナビリティを巡る課題への取り組み-などを主なポイントに挙げた。

 とくに取締役会の機能発揮では、プライム市場上場企業において独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任すること、必要な場合には過半数選任することを強く推奨している。同時に単なる形式的な独立社外取締役ではなく、他社での経営経験を有する者を含めるべきとしている。

 20年時点で、東証一部上場企業のなかで独立社外取締役を3分の1以上選任している企業は58・7%に達するが、過半数となると6%にとどまる。英国、米国、フランスなどの欧米諸国だけでなく、シンガポール、韓国などアジア各国も過半数の独立社外取締役選任を求めるコーポレートガバナンス・コードを規定している。将来的に日本のプライム市場においても、同様の対応が求められることになるだろう。

 そこで課題となっているのが、日本は諸外国に比べて社外取締役候補の人材が十分にプールされていないということだ。とくに社長、副社長経験者など、実際に企業経営を手がけてきた人材が不足しているといわれる。要因の一つとして社長、副社長経験者が会長、相談役、顧問などの肩書きで出身企業に残り、人材の流動性が高まらないことが挙げられる。

 社長、副社長経験者には、社内に残らず、積極的に社外に活躍の場を求めることを提案したい。重鎮たちが社内にとどまることでマネジメントの新陳代謝が遅れ、事業環境変化に対応できなくなるリスクもある。一方で修羅場をくぐった社長、副社長経験者が社外取締役に就くことで企業の経営監督機能が強化され、企業価値向上につながるだろう。とくに化学産業は素材提供を通じ、幅広い産業に接点を持つ。当然、事業ポートフォリオも幅広い。それら多彩な事業をまとめあげてきたマネジメント経験は、異業種の経営判断にも大いに生かせるに違いない。

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