世界的なカーボンニュートラルの潮流を受けて再生可能エネルギーへの投資競争が加速しているが、移行期に向けては石油や天然ガスなどの化石燃料の使用が不可欠だ。必要な油・ガス田への投資で国際社会が協調するなど、長期的な視点でエネルギーの安定供給を考える必要がある。

 石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の産油国で構成する「OPECプラス」は月初の閣僚級会合で、原油の増産について、月ごとに供給量を日量40万バーレルを増やす現行ペースを維持すると確認した。消費国との対立を避ける賢明な判断と評価できるだろう。

 油価は、コロナ禍からの経済活動復調にともない夏場から上昇。10月下旬には約7年ぶりに85ドルの高値を付けた。ガソリンや食品など幅広い分野の値上げに波及し、企業経営を圧迫するなど経済回復の足かせとなり始めていた。

 ガソリン高が国民の不満につながり支持率の低下に拍車がかかるのを恐れた米バイデン政権は石油備蓄の協調放出に踏み切ると発表。日本や中国、英国、インドなどが同調し、供給量を一時的に増やして価格を下げようとの異例の動きに発展した。

 原油相場は不透明感が強まっている。高値圏にあった油価は新型コロナウイルスの変異型「オミクロン株」の広がりによる需要への影響を警戒して11月下旬に急落、現在は70ドル近くで推移している。産油国側には需要減を見据えて増産を停止する意見も多いが、OPECプラスは米など石油備蓄の放出に動く消費国に配慮し現状維持を決めた。

 ただ足元の状況では、いつ80ドルを超える原油高が再燃するか分からない。そもそも油価高騰は、カーボンニュートラルの流れのなかで化石資源が「座礁資産」と捉えられ、世界的に開発投資が減少していることが背景。昨年の世界の油田・ガス田への投資額は15年比で半減したとされる。

 世界はカーボンニュートラルへ一斉に舵を切ったが、化石燃料から再エネへの転換は一朝一夕には進まない。バックアップエネルギーとしての重要性を考慮すれば、石油や天然ガスが全て不要になるわけではないだろう。必要であれば官民一体で化石資源に投資するなど中長期的なエネルギーバランスを考慮したうえで、産油国と消費国が冷静な対話を継続すべきだ。

 石油化学についても同様。温室効果ガス削減は避けられない課題だが、ではエッセンシャルインダストリーとして基礎化学品の国内生産をどう位置付けるのか。中長期的な素材の経済安全保障をどう描くのか。企業単独で解を導くのは困難だ。官民・業界を挙げて知恵を絞る時が来た。

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