今年の業界団体の賀詞交換では米中貿易摩擦に触れたあいさつが多かった。その米中両国は15日、貿易交渉を巡る「第一段階の合意」に署名した。しばらくの休戦という見方や、実効性がともなうのかと疑問視する声もある。いぜんとして先行きは不透明であり、日本企業にとっても大きなリスクとして経営に影を落としている。
 本紙が先ごろ、中国で展開する日系企業を対象に実施したアンケートでも9割の企業が「第一段階は小さな一歩に過ぎず、産業政策の見通しなど多くの課題を残す」と回答している。
 上場している専門商社の業績を見ると、中国との取引が多い企業では2019年4~9月期は前年同期より営業利益率が減少しているところがある。昨年のトップインタビューでも、20年の業績は前年より堅めに見ているという企業が多かった。
 だが合意後に株価が回復したことから、取りあえず安堵感も漂っているようだ。国家間交渉について民間に為すすべはないが、経営者には時局に臨機応変な舵取りが求められそうだ。
 「チャイナプラスワン」といわれて久しいが、中国政府の環境規制による工場の操業停止に米中貿易摩擦の影響が加わり、生産拠点を中国から東南アジア諸国に移転する動きも加速しているようだ。化学品専門商社も調達先を東南アジアに切り替える動きが表れ始めている。
 他方、8日に世界銀行が発表した世界経済見通しでは、20年の世界経済成長率は2・5%と予想した。緩やかではあるが伸びている。また20年の貿易量の伸び率は1・9%を予想し、米中間の交渉による追加関税のさらなる撤廃など、緊張が緩和すれば、さらに伸び率が予想を上回る可能性もあるという。中国経済は緩やかな減速傾向にあるとされる。それでも経済成長率は5・9%と日本の0・7%に比べれば格段に高い数字が見込まれている。中国の内需は、それなりに堅調であり、日本の約10倍の人口を抱える魅力的な市場であることに変わりはない。
 民間でできないことは政府の仕事となろう。17日に開催された経済財政諮問会議後の会見で西村康稔内閣府特命担当大臣(経済財政政策)は第一段階の合意について「心理的にはマーケットが反応しているようにプラスの評価になっていると思う。今後、第二段階の合意も含め、協議の進捗状況についてはしっかりと目配りをしていきたい」と語り「多くの重要な国々の経済閣僚との対話もやっていきたいと考えている」とも述べた。米中をはじめとした世界のなかで日本政府の果たすべき役割は重要性を増している。

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