世界経済の現状を見ると、新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいる国は経済活動が再開しているようだ。他方、変異種の感染が拡大している地域では経済活動が抑制されているが、世界全体としてみると持ち直しているといえそうだ。日本でも接種はある程度進んできているようだが、いまだに「接種したい人が接種できない」状況が続いていることも否めない。ようやく感染者数が減ってきたが活動制限は続いており、観光・旅行・飲食業界の需要は引き続き低迷している。他の業界は比較的好調に推移しているが、ここに来て原材料費が上昇しており企業収益に影を落とし始めている。

 8月の月例経済報告で政府は景気全体に関し「持ち直しの動きが続いているものの、一部で弱さが増している」との判断を据え置いた。先行きについては、感染拡大を踏まえ「下振れリスクの高まりに十分注意する必要がある」としている。リスクを回避するためにはワクチン接種率を高めていくことが喫緊の課題といえよう。

 4~6月期の実質GDP成長率は前期比0・3%と2期ぶりのプラスだった。ただし川上の「素原材料」の価格は国際市況を受けて大きく上昇している一方、川下の「最終財」への価格転嫁は限定的であり、転嫁の動向次第では、企業収益にマイナスの影響が生じ得ると警鐘を鳴らしている。景気回復のうえで重要な個人消費については、8月は通常ならお盆時期で消費が盛り上がるところ、今年は例年に比べ低い水準で推移しているという。帰省や旅行が制限されている結果だろう。

 輸出は海外経済の回復を背景に緩やかな増加が続いている。製造業の生産も、5G関連で需要が旺盛な電子部品・デバイスや設備投資向けの生産用機械を中心に持ち直している。ただし東南アジアで感染拡大にともない部品の供給不足が生じており、一部自動車メーカーは8月下旬~9月に国内での減産を発表した。国際的なサプライチェーンを通じた感染症の影響に注視していく必要がある。

 欧米の実質GDPは、ワクチン接種の進展などを背景に4~6月期にプラス成長となり、米国ではコロナ前の水準を回復した。だが月例経済報告では、世界的な半導体不足に加え、感染再拡大、米国の物価動向、金融資本市場の変動などを注視する必要があるとしている。先進国と比べワクチン接種が遅れているアジア諸国においても、感染が再拡大し経済活動の制限措置が実施され、製造業の景況感が急低下する国もみられるという。ウィズコロナは当分、世界的に続きそうだ。

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