日本触媒と三洋化成の対等精神に基づく経営統合は中止となった。2019年11月に最終契約を締結したが、その後、新型コロナウイルスがまん延して経済環境が激変したため、合併条件が当初から大きく変わってしまった。21年4月に予定していた経営統合を、さらに延ばそうという意見が上がったが、新型コロナの収束は見通せず、株式移転比率を決められないといったことから白紙に戻すことにした。有力化学メーカー同士がいかにして融合し、相乗効果を発揮してグローバルで成長を遂げていくのか楽しみにしていた業界関係者は多く、破談に終わったことは残念でならない。

 統合が実現できていれば、さまざまな製品、事業でシナジーが発現していたはずだ。酸化エチレン(EO)-界面活性剤チェーンでは、日本触媒はEOから扱っており、三洋化成は得意とする機能売りを推進しながら界面活性剤の拡販に励むとともに、鹿島工場(茨城県)で製造設備を入れ替え、海外に新工場建造を検討するなど攻勢をかけている。

 紙おむつなどに用いられる高吸水性樹脂(SAP)は年間生産能力が単純合算で110万トン超と圧倒的な規模となり、競争力強化が見込まれていた。日本触媒はSAPの原料であるアクリル酸から一貫して手がけており、SAPについては「SAPサバイバルプロジェクト」に取り組み、製造コスト低減などに努めている。三洋化成は高付加価値路線へのシフトが奏功し始め、SAP事業は黒字化を果たしている。また日本触媒は超速乾性を、三洋化成は脱水速度を速めたSAPを、それぞれ開発するなど研究開発・製造・販売において両社の良い面が掛け合わさり、SAPはキャッシュ・カウとして合併後の屋台骨を支えるはずだった。

 新製品・新規事業創出の面でも期待感は大きかった。エネルギー分野では両社ともリチウムイオン2次電池(LiB)関連に積極的に経営資源を投じている。日本触媒は新規電解質「イオネル」、三洋化成はグループのAPB(東京都)が主体となり全樹脂電池の育成に力を注いでいる。全樹脂電池にはイオネルが使われているが、一体化によって特色ある材料の開発や、全樹脂電池のさらなる高性能化の進展が加速していたかもしれない。化粧品、メディカルといった分野でも相乗効果が所期されていた。

 統合は中止となったが「協力し合えることは共同しよう」と意見は一致しており、事業ごとに連携する可能性はある。再び自前での成長を追求することになる両社の動向を注視したい。

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