塩野義製薬が開発した新型コロナウイルスの経口薬「ゾコーバ」の承認について、6月22日に審議した厚生労働省の医薬品部会は判断を先送りした。国産初のコロナ薬として期待は高いが、治験成績や緊急承認制度の仕組みを踏まえると、すんなりと結論を出せない背景が見えてくる。

 審議の焦点は、承認申請の根拠としている後期第2相臨床試験の成績だ。通常、医薬品の有効性や安全性の判断材料は、治験に当たり事前に定める主要評価項目のいずれも達成しているか、あるいは、そうでないかという点。

 ゾコーバは主要評価項目のうち、プラセボ(偽薬)と比べた抗ウイルス効果については達成。一方で頭痛や悪寒などコロナで表れる主な12症状の総合的な改善度合いについては達成できなかった。

 難病薬などでは、一定程度の有効性と安全性が認められれば仮承認し、その後の検証的な治験で有効性を確認されれば正式承認するという条件付き早期承認制度がある。

 塩野義は2月の製造販売承認申請の際、この制度の活用を計画した。ところが5月に施行された改正医薬品医療機器等法の下に緊急承認制度という枠組みが創設され、同社は途中で適用を切り替えた。

 この緊急承認制度が部会審議を、さらに難しくしたと考えられる。その適用要件の最初に「緊急使用が必要な医薬品であり、当該医薬品以外に適当な方法がないこと」と明記してある。この書きぶりは落ち着きつつある現在のコロナ情勢に当てはめれば結論を出しにくい。

 実際、審議に参加した専門家の意見は割れた。「新たな変異株などの出現に備えて治療薬の選択肢を増やすことに意義がある」のは疑いないものの「すでに経口薬は2種類あり、一つは同じ作用の薬のため、新規性に欠ける」と賛否それぞれあった。

 もう一つは緊急承認制度における有効性の評価の考え方が「効能・効果を有すると推定されること」と表現している点にある。「抗ウイルス効果によって実効再生産数を小さくできる可能性がある」との一方で「臨床症状の改善が示されておらず、曖昧な状態で国民がこの薬を使うことをどう考えるのか」と、こちらも賛否が分かれた。

 そもそも専門家が集まる医薬品部会が結論を持ち越すのは異例のこと。厚労省は、緊急承認の医薬品は高い透明性の下で審議する必要があるとして、部会の上部組織である薬事分科会でも審議する規定を5月末に新たに作った。7月にも公開で再度審議する予定だが、専門家が結論を下せない難問にどんな答えを見出すのか、注目される。

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