自動車工業4団体(日本自動車工業会、日本自動車部品工業会、日本自動車車体工業会、日本自動車機械器具工業会)が10日、ウェブ中継による合同記者会見を開いた。そのなかで日本自動車工業会(自工会)の豊田章夫会長(トヨタ自動車社長)は、危機感をあらわに「コロナ感染拡大にともなう自動車業界を挙げての対策と取り組み」について訴えた。4団体による取り組みは、すでに多くのメディアで伝えられているが、改めて「日本経済を牽引する筆頭格といえる自動車産業」として、化学を含む幅広い産業に与える影響力の大きさ、および業界団体の長としての責任感を強く示すものとなった。
 新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済の成長を止める「グローバルディザスター」と呼んでも過言ではない規模・レベルに達している。変動要因はあったものの昨年まで比較的好調を維持してきたわが国の自動車産業も、その渦中にある。欧米や新興市場である中国における販売の減速に、コロナによる消費減と買い控えが重なった。主要自動車各社は一部稼働を再開しているところもあるが、ほとんどは国内外工場の一時停止に踏み切っている。
 豊田自工会会長は「(このコロナは)まさに国難とも呼べる大危機。自動車業界が結束し、経済や国民生活悪化の歯止めを何とかできないか」と語り、幾つかの対策を提言した。そのなかで自動車のみならず日本の産業界全体にも通用可能な対策が「人材融通ファンド」構想だろう。技能や技術を持つ人材を業界内で融通し合い、コロナ感染拡大などによる雇用難や人材不足を補うことで、自動車産業全体で人的資源の維持を目指すものだ。
 業界内で出資金や、かかる経費などをファンドで賄う仕組み作りなどに今後着手する。各社からの出資金は非課税措置とするよう政府に要望するという。膨大な産業チェーンを持つ自動車だが、未曾有の危機と言える新型コロナにより、そのチェーンの一つでも機能しなくなれば「完成車」ができあがることはない。それを支えるのは各社の人材であることは明白だ。
 化学産業も、自動車産業に対して樹脂や塗料、接着剤、ウレタンなど多彩な製品のサプライヤーとして深くかかわわる。自動車産業の減速は、化学産業にも直接・間接に大きく響く。主要化学各社は、この間の好況でキャッシュフローは潤沢な状況にある。自動車4団体に倣い、業界団体として可能な取り組みを提示できるのではないか。そのなかで人材融通ファンド構想も十分に参考となるだろう。

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