国土交通省は、自動運航船の安全設計ガイドラインを策定した。運用の範囲・条件の設計、サイバーセキュリティ確保など10項目を留意すべき点として掲げた。自動操船や遠隔操船などの技術は、船員の業務負担軽減に加え、人的要因による事故の削減にも寄与するものとして世界的に関心は高く、国内における開発・実用化が促進されることを期待したい。

 センシング技術やAI(人工知能)、IoTなどの技術が急速に進歩したことで、自動運航船実用化も世界各国で進展している。こうしたなか国際海事機関(IMO)は、2018年5月に自動運航船に対する規制の枠組みに関する検討を開始したのに続き、19年6月には国際航海を行う自動運航船の実証試験を安全に実施するための原則などを定めた暫定指針を策定した。

 国内では、国交省が自動運航船の技術開発と基準・制度見直しの大枠を示すロードマップを18年に策定した。そのなかで陸上からの操船やAIなどによる行動提案で、最終的な意思決定者である船員をサポートする船舶「フェーズⅡ自動運航船」を25年までに実用化する目標を掲げ、安全な設計、製造、運航を実施するための環境整備として実証事業を実施してきた。このほど策定した安全設計ガイドラインでは、これまでに得られた知見・技術動向などを基に基本的な考え方を示した。

 自動化システムの技術は、いぜん発展途上にあるため、自動運航船についても現時点では船員が意思最終決定者であることが前提。緊急時に常時対応できる体制の整備、さらに自動化システムが実行するタスクにおける人間とコンピュータシステムの役割分担を明確にすることが不可欠となる。今回のガイドラインも操舵、進路変更・保持、姿勢制御、推力制御、見張り、航海計画の策定など船員が実行する操船に関するタスクを支援するための自動化システムのみが対象となる。今後の技術の進展や国際基準の動向などを見極めながら適宜見直しを図る。

 海上物流は世界経済の維持・発展に大きな役割を担う。それだけに、とくに人的要因による海難事故防止は喫緊の課題だ。日本では19年に2053隻で船舶事故が発生し、うち約7割が人的要因とされる。人間が行う認知・判断・対応を自動化システムで支援する自動運航船を導入・実用化することは、海上の安全性確保、船上の労働環境改善、産業競争力・生産性の向上はもちろん、人的要因による海難事故減少の観点からも意義は大きい。その意味でも今後、関係業界が一丸となって技術開発を加速するべきだろう。

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