中国化学企業の海外展開が加速しつつある。同国最大の化学専業会社、中国中化控股(シノケムHD)は、農薬や合成ゴムで経営国際化を推進し、合繊大手の恒逸石化(ヘンイー、浙江省)は、ブルネイで製油所・石化一体化投資を計画している。一帯一路戦略の要地である東南アジアでは、かねてより不動産や金属、鉱山、自動車、ITなどの業種で中国企業が投資を重ねてきた。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)発効をテコに、進出はさらに増えるだろう。中国は、こうした活動の基盤である自由貿易体制維持に、大国としての責任を果たすべきだ。

 中国企業は、コロナ禍にあっても着々と海外進出を進めてきた。IT企業ではテンセントが2020年9月、シンガポールに地域統括本部を設置し、21年にはインドネシアでデータセンターを開設。またファーウェイは同年末、タイで5G関連の研究所を開設した。米中摩擦を受けて、一時IT企業の海外上場が大幅に制限されるとの見方があったが、その方針も今年に入り転換されたようだ。

 化学業界も同様だ。例えばシノケムHDグループで合成ゴムの製造販売を手掛ける中国化工橡㬵は現在、上海と伊ミラノで子会社を上場。約160カ国で製品を販売、生産拠点を13カ国に置いている。シノケムHDの寧高寧董事長は「国家資産の価値向上には株式上場などグローバルな通商ルールにのっとった企業運営を行うことが重要」と述べており、積極的に海外事業の拡大を図る姿勢だ。

 一方、恒逸石化はブルネイで既存製油所を増強し、新設するナフサ分解炉や合繊原料設備との一体化を図る。総額900億元(約1兆8000億円)に上る大型投資だ。

 中国政府は米国との経済関係を重視する一方、一帯一路戦略の下、米国に依存しない国際サプライチェーンの確立も追求する。RCEPはその重要なテコの一つであり、政府は自国企業に対しアジア太平洋ならびにグローバル市場への進出を積極化するよう促している。中小企業にも、通商ルールに関する情報やコンサルティングサービス、社員の訓練機会を提供するなど支援を充実させている。

 こうした中国の海外事業拡大はグローバルな自由貿易体制に支えられている。また同国の急速な国内経済の発展のきっかけとなったのは01年の世界貿易機関(WTO)加盟だ。ウクライナ戦争と米中摩擦の長期化は、透明かつ公平な貿易体制と経済安全保障を脅かしている。中国も、こうした制度のフリーライダーであってはならず、その維持と発展に責任を果たすべきだ。

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