国土交通省はこのほど、かねて検討を重ねてきた船員養成の改革に関する方向性をとりまとめた。そのなかで近年の国際条約改正への対応や技術革新に適応した知識・技能を有する人材を確保するために、教育内容の高度化、海技士養成定員の拡大とともに、基幹的な船員養成機関となる海技教育機構(JMETS)の安定的な財源確保などが重要になると指摘した。今年4月からの海技教育機構第4期中期目標・中期計画(5カ年)にも反映させ、できるものから順次進めていくという。

 JMETSは船員教育・養成の中核となる独立行政法人。教育施設として科技大学校、海上技術短期大学校、海上技術学校(高校相当)を運営するとともに、5隻の練習船も運航している。保有するリソースを最大限有効に活用して船員の養成および資質の向上を図り、安定かつ安全な海上輸送の確保につなげる役割を担う。

 2017年6月の「内航未来創造プラン」では、質が高く海運業界のニーズにマッチした船員の養成に取り組むとともに、そのあり方の検討を進めるべきと指摘された。こうしたなか国交省は、優秀な船員を持続的に養成していくことを目的に18年10月に学識経験者、海運業界、教育機関および労働団体で構成する「船員養成の改革に関する検討会」を設置し、具体的内容について幅広い見地から議論を重ねてきた。

 今回のとりまとめでは、4級海技士養成で実施されていなかった電子海図表示装置(ECDIS)訓練や陸上工作技能訓練の実施など、ニーズに応じた教育内容の高度化、海上技術学校の段階的な短大化など具体的な方向性を示した。JMETSの財源確保については、運営に必要な予算を国が安定的に確保することはもちろんのこと、多様な財源で一層の自己収入の拡大策の検討が引き続き必要としている。これらと併せて安全意識の向上への取り組みを引き続き徹底していくことも忘れてはならないだろう。

 船員は社会機能や国民生活を支えるエッセンシャルワーカーである一方、海事産業は職業として認知度が低いとされる。このため海事関係者連携の下、国において海事に関する情報を集約する体制を整えて積極的に情報発信している。ただ職場環境の改善などに産学官、さらには国も協力することで、優秀な船員(海技者)志望者の裾野を拡大する必要があるのは言うまでもない。船員が魅力ある職業として広く認識され、海上輸送を担う優秀な船員の養成が将来にわたり安定的かつ継続的に進められることを期待したい。

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