海運分野の温室効果ガス(GHG)排出削減に向けて、船舶燃料としてアンモニアの利用を拡大するための体制づくりが国内で進み始めた。日本郵船、ジャパン マリンユナイテッド、日本海事協会の海運3者が、燃料アンモニアの安定供給と外航船舶ゼロエミッション化を目指した共同研究に乗り出す。

 国際海運分野では環境保全への取り組みが重要課題となっている。国際海事機関(IMO)は2016年10月、船舶燃料に含まれる硫黄酸化物(SOx)の濃度を従来の3・5%以下から0・5%以下に引き下げることを義務付けた国際規制(SOx規制)を採択。20年1月から本格的な運用が始まった。18年4月には国際海運におけるGHGの総排出量を50年までに08年比で50%削減し、最終的に今世紀中の可能な限り早い段階で排出ゼロとする目標を掲げた。

 こうしたなか国土交通省は今年3月、国際ルールの整備や技術開発・実証の推進などについて取り組みを示したロードマップを策定した。世界に先駆けて28年までにゼロエミッション船の商業運航を目指しており、アンモニアを代替燃料の候補の一つに挙げている。

 アンモニアは燃焼させても二酸化炭素(CO2)の排出がなく、地球温暖化対策に貢献する次世代燃料として有望視されている。さらにアンモニアの原料となる水素にCO2フリー水素を活用することで、ゼロエミッション化も可能という。

 燃料アンモニアの安定供給を実現するには輸送インフラの整備が不可欠となる。3者はアンモニアを主燃料とする液化アンモニアガス運搬専用船(AFAGC)および浮体式アンモニア貯蔵再ガス化設備(A-FSRB)の実用化を目指す。それぞれ世界初の取り組みとなる。

 現在、アンモニアの大量海上輸送に多目的液化石油ガス(LPG)船が使われている。実用化を目指すAFAGCは、積荷であるアンモニアを燃料に活用することで外航船舶のゼロエミッション化が図れる。またA-FSRBについては、陸上設備の代替として活用することで燃料アンモニア導入の早期実現が見込まれている。

 すでに国内においては、アンモニア100%のガスタービン発電に成功している。また石炭火力発電所でのアンモニア混焼発電に向けた技術開発も進んでいる。アンモニアの大量輸送および供給インフラは、石炭火力発電所へのアンモニア混焼導入時のソリューションとしても有望視されている。エネルギー産業の脱炭素化への貢献の観点からも、3者の共同研究の成果を期待したい。

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