船舶燃料のLNG(液化天然ガス)化へ向けた体制整備が進展している。川崎汽船、日本郵船、JERA、豊田通商の4社は先ごろ、中部地区でLNG燃料バンカリング船による船舶への燃料供給を開始した。船同士を横付けする「シップ・トゥ・シップ」方式によるLNG燃料供給事業は国内初となる。

 IMO(国際海事機関)は船舶から排出され、環境に影響を及ぼす物質の排出規制を強化している。今年1月には硫黄酸化物(SOX)の濃度を、従来の3・5%以下から0・5%以下に引き下げることを義務付けた国際規制(SOX規制)が本格的にスタートした。さらに2050年までに国際海運の温室効果ガス排出量を08年比で半減させる目標を設定している。

 LNG燃料は重油に比べ、SOXや粒子状物質(PM)の排出をほぼ100%、窒素酸化物(NOX)を最大80%、二酸化炭素(CO2)を約30%削減できると見込まれる。国際的に強化される船舶の排出ガス規制への対応として有力な燃料と位置付けられている。日本でもLNGを主燃料とする船舶の建造が相次ぐとみられるが、今後の普及には船舶への供給体制の整備が不可欠となる。

 欧州においては、先行的なECA(特別海域)の指定による厳しい環境規制の導入および政策インセンティブの整備によって、すでに100隻以上のLNG燃料船が運航。バンカリングインフラの整備も進んでいる。深刻な大気汚染問題などに直面する中国も、30年までに1次エネルギー消費に占める天然ガスの比率を15%に引き上げる目標を掲げており、その一環として船舶燃料をLNGに転換するための体制構築を急いでいる。

 LNGバンカリングの手法には(1)岸壁係留中の船にLNGタンクローリーから供給する「トラック・トゥ・シップ」(2)陸上のLNGタンクターミナルから供給する「ショア・トゥ・シップ」(3)係留中あるいは錨泊中の船に燃料供給船が接舷して行う「シップ・トゥ・シップ」-がある。トラック・トゥ・シップは大型船へのバンカリングの際に何十台ものローリーが必要。ショア・トゥ・シップはタンクのある場所に船舶が係留しなければならない。このため大型船にはシップ・トゥ・シップが、とくに有望とされている。

 日本は世界一のLNG輸入国で、LNGターミナルが全国の港湾に多数立地する。にもかかわらず船舶燃料のLNG化で欧州、中国に遅れをとっているのは否めない。今回の4社の取り組みを機に体制整備を急ぎ、海洋の環境負荷低減に大きな貢献を果たすことが期待される。

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