菅義偉首相が就任早々から声高に叫ぶ「オンライン診療」。新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、通院患者の負担軽減と、必要な治療から脱落する患者を防ぐため、4月に特例的に初診を含めて全面解禁された。先週開かれた河野太郎規制改革相、平井卓也デジタル改革相、田村憲久厚生労働相の3大臣会合で、コロナ後も原則解禁とすることで意見一致した。

 高齢化や地方の過疎化、医療人材の不足や医療の格差など、日本の医療をめぐる諸課題解決の一手としてオンライン診療が担う役割は小さくないだろう。現下はもちろんコロナ後の社会のキーワードに「非接触」「非対面」がある。さまざまな社会システムが変革を求められるなか、医療システムもコロナをテコにした進化が欠かせない。

 政府は2018年にオンライン診療を一部解禁し、コロナを受けて4月に特例的・時限的に全面解禁した。厚生労働省の調査では、7月末時点で初診にオンライン診療を採用した医療機関は全体の約15%。少なく見えるが、医療機関の数にするとコロナ前の5~6倍に増えたという。適切な医療を運用できるようにしただけでなく、受診抑制による医療機関の収入減を底上げしている側面もある。

 こうした現状を踏まえ、政府は安全性と信頼性をベースにした制度の下、初診を含めてオンライン診療を原則解禁する。専門家を集めて早急に制度設計に着手する方針だ。すでに米欧など海外諸国は、医療にデジタル技術を積極的に活用している。それら優れた事例を取り入れつつ、日本の医療事情や国民性に沿った新たな医療制度として構築するべきだ。既存ルールにつぎはぎするような成り行き任せの制度作りでは困る。

 現在、オンライン診療は電話でも可能となっているが、今後設計する制度は映像を使った診療が原則となる。オンラインで医師が得られる情報は対面診療に比べて少ない。対象疾患は広がる方向だが、すべての疾患でとはいかないだろう。オンライン診療システムを手がける企業も「少しの異常も見逃せないような急性期疾患は向かない」と指摘する。患者の症状を聞き取る医療相談、検査・診察、服薬指導など、それぞれの役割を明確にする必要もある。

 日本医師会や日本薬剤師会も政府に対して、かねてから慎重な対応を求めている。医療提供者側も、オンライン診療を踏まえた新たな医療のあり方を模索し、追求しなければならない。信頼を失う使い物にならない制度とならぬよう、幅広い関係者の知恵を集め、慎重かつ迅速に議論を進めてほしい。

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