研究開発、事業のシーズは、どうニーズと結びつき、花を咲かせるのか。世の中が変わり、テクノロジーが進歩するたびに新しい産業、市場が生まれ、供給される素材の機能、種類も変わる。変化にともなうチャンスを見極めてつかむには、どうすればよいのか、そこに成功法則はあるのか。こうした疑問を半導体なり、ライフサイエンスなり、現在の成長ドメインに供給する素材を有する化学会社の社長や研究部門のトップにぶつけると「運が良かった」という答えが返ってくることがある。

 その答えを分解すると、当然だがシーズそのものを持っていることが重要になる。「たまたま、その素材を扱っていた」というケースだ。開発しても日の目を見ない素材はやがて誰からも顧みられなくなり、廃番になる。しかし、その素材にしか出せない、いまは目立たない機能があり「もし、これから生まれてくるニーズとマッチしたら」という可能性は捨て切れない。だから、ある研究部門トップは「開発した素材のすべてを保管しておきたい」と語った。

 一方、将来に大した期待が見込めず、これも縁かと思って他社から売り出されたパッとしない事業を承継したら、世の中がガラッと変わって別の業界で需要が起こり、収益の大半を稼ぐほどに発展した事例もある。

 世の中は変わり続けている。成長ドメインは誰もがターゲットに据えるし、そこでの競争にいかに勝ち抜くか。

 最近目立つのは、研究開発の初期段階から環境への影響を意識する動きだ。リサイクル可能か、低VOC(揮発性有機化合物)か、長寿命を実現するのかといったチェック項目が加わっる。SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)が経営指標になってから「自社のラインアップを棚卸ししたら、かなりの製品が該当していた」という灯台下暗しのような例も多いようだ。

 いま軸足を置いている見通しの良い市場で一定のシェアを有しているのであれば、実績を生かして業界の技術革新をキャッチアップし、アメーバ状に市場浸透し続けていく戦略もあるだろう。スタートアップの世界でいま何が注目されているかを調べ、先手を打てないか、未来予想的な検討をすることも大切だろう。

 しかし何が成功を約束してくれるかは、やはりはっきりしない。ポイントを押さえつつ、結局は自社にできることを信じて続けていくしかない。仮に「運が良かった」で片づけた人々が本当は秘訣を知っていたとしても、そこにあるのは、やっぱり地道な営みであろうから。

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