帝人の自動車向け複合成形材料事業のステージがまた一段上昇した。2017年に8億2500万ドルで買収した米コンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチックス(CSP)を中核としつつ、帝人本体の拠点や、欧州で買収した複数の事業会社などに分かれていたティア1事業について、統合ブランドとして「テイジン・オートモーティブ・テクノロジーズ」(TAT)を策定した。各グループ会社もTATを冠した名称に社名変更する。

 複合材料による最大手のティア1サプライヤーとして業界でメジャーな存在であったCSPをはじめ、ポルトガルのイナパルや、チェコのベネットの社名も消える一方、それぞれの会社および事業ブランドに新たに“テイジン”の名称が付くことになる。自らの社名を前面に打ち出すことは、帝人が複合成形材料事業にかける思いの強さと、今後の成長に向けた自信・覚悟を示すものだ。

 そもそも帝人がCSPを買収した際には、炭素繊維メーカーである帝人が、将来的な炭素繊維の一大市場になることが期待されていた自動車市場への足掛かりを持つための決断だとみる向きもあった。しかし帝人は、ティア1サプライヤーをグループ化することで、素材メーカーから軽量化のソリューションプロバイダーへの脱皮を図ってきた。自社素材にこだわることなく自動車業界が求める最適解が何であるのかを導き出し、提供することに徹している。

 CSPの主力はガラス繊維と熱硬化性樹脂を組み合わせたシートモールディングコンパウンド(SMC)製のパーツだが、ここには帝人の素材は使われていない。しかしSMCの原反から製造してプレス成形し、場合によっては塗装やアセンブリまで手掛ける事業モデルは、北米市場で豊富な実績を有し、顧客からの評価は高い。燃費向上、電気自動車(EV)シフトや自動運転による重量増への対応としての車体軽量化要求に応えるために、複合材料による軽量化提案ができる同社のソリューションにグローバル市場でますます期待が高まっている。帝人の技術である熱可塑性樹脂を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRTP)パーツも実績化しているが、ニーズに合致するときに提示する有力な選択肢の一つという位置付けだ。

 帝人の資本および技術力を注ぎ込むことで、北米が主体だったティア1ビジネスは欧州や中国、日本などでも大きな成長を見込めるようになった。新規事業進出のM&Aの成功事例といえよう。新たな「TAT」の旗印の下、成長を一層加速してほしい。

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