生活習慣病に罹患していると将来、要介護状態になるリスクが高いと考えられている。しかし「運動習慣をつければリスクを低減できる可能性がある」との研究報告を新潟大学が公表した。超高齢社会が進行する一方の日本。健康寿命が断たれる可能性のある要介護状態を回避する手段が、いま強く求められている。今回の研究報告は複数のデータを統合して活用し、精度の高い手法で解析が行われた。科学的根拠に基づいて健康政策を立案していく際、データづくりの手本となるだろう。
 今回の研究は、新潟大学医学部のチームが医療データサービスを手がけるJMDC(東京都港区)と共同で行った。新潟県三条市の特定健診、診療報酬請求(レセプト)、介護保険のビッグデータを対象に統合解析。生活習慣病と要介護状態に陥るリスクの関係を解明した。
 この研究で注目すべきは大規模に精密に検討した手法で行われた点。75歳以上の高齢者は後期高齢者制度へ切り替わるため以前のデータと構造が異なり、前後のデータがつながらない問題がある。3つのデータを統合したことで詳細な解析が可能になった。またレセプトデータを用いる従来の研究では、多くが請求に使われた保険病名をそのまま利用しているが、診療の現場では検査との整合性を図る必要から、疑わしい事例、軽症でも保険病名をつけることがよくある。本当に疾患を発症したのか、追跡するに当たり信頼性が乏しかった。今回の研究には保険病名に頼らず、健診結果、診療内容を精査し、情報を正確に特定したデータを用いた。
 2012年から4年間に健診を受けた39―98歳の約9700名を抽出。それら対象者の高血圧、脂質異常症、年齢などのリスク因子を補正したうえで運動習慣は「軽く汗をかく運動を週に2回30分以上1年継続」と設定して解析した。その結果「糖尿病」「運動習慣なし」の組み合わせは「糖尿病なし」「運動習慣あり」の組み合わせより要介護発生リスクが3・2倍高かった。「糖尿病」「高血圧「脂質異常症」「運動習慣なし」を満たす場合は、いずれも該当しないものの4倍にも達した。一方、糖尿病患者でも「運動習慣あり」だと「糖尿病なし」並みにリスク低減できる可能性が示唆されたという。
 これまでも生活習慣病予防の観点から運動習慣の重要性が指摘されてきたが、罹患者も運動習慣をつけることの大切さが示された。東京オリンピック・パラリンピック開催の今年、健常者も含め「健康寿命の延伸=運動習慣」を強く意識する良い機会となろう。

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