企業の事業戦略が再考を迫られる。米中貿易戦争に起因した世界経済の減速で厳しい環境を覚悟していたなか、新型コロナウイルスの感染拡大は想定を上回る経済への打撃となる。自動車や電機業界が減産・休業に踏み切るなどサプライチェーンを含めて経営基盤を揺るがす。先が見えないなか、事業計画を見直すのか、回復を見越して断行するのか、化学企業にも難しい判断が突きつけられる。

 状況の厳しさは数字に表れた。国際通貨基金(IMF)は2020年の世界経済の成長率をマイナス3%と予測。リーマン・ショック後の金融危機に見舞われた09年のマイナス0・1%を上回る悪化を予測し、世界大恐慌以来、最悪の景気後退局面になると見通した。ユーロ圏でマイナス7・5%、米国はマイナス5・9%、日本もマイナス5・2%と深刻な景気後退に直面するとみている。

 国内に限ってみても、月例経済報告は3月の時点で景気の総括判断を「厳しい状況」だとして下方修正。6年9カ月ぶりに「回復」の表現が削除された。4月の報告は延期されたが、2カ月連続の下方修正は確実な情勢だ。訪日客数は3月に前年同月より9割減り、関連産業は大きな打撃を受けた。来年夏に延期された東京五輪までにコロナ騒ぎが収束し、回復に向かうことを願うが、これまでのような一本調子の増加傾向は期待薄といえる。

 先が見通せないなか化学企業は相次ぎ、4月後半から5月にかけて予定している3月期決算発表の延期に踏み切った。感染拡大の影響で、海外現地法人の一部で決算業務が遅延しているとの理由を挙げる企業が多い。説明会もウェブ利用への変更など工夫を強いられる。6月に集中する株主総会にも影響するのは必至だ。欧米企業のなかでは経済情勢の悪化を受けて、発表ずみの20年業績予想をいったん取り下げる企業も出てきた。

 この影響は、日本触媒と三洋化成が今年10月に予定していた経営統合の延期にも及んだ。事業環境の見通しが不透明なことを理由に挙げ、半年後の実現を目指す。著しい環境変化を踏まえ株式移転比率の見直しも行うという。昨年11月下旬に経営統合に関する最終契約を締結し、統合後にシナジーが発揮できる体制づくりへ準備を進めてきたが、これが先延ばしになる。

 テレワークの浸透から、今後は働き方などの価値観が一変するかもしれない。ただ持続成長のためには、各社が描いてきた成長戦略を確実に実行していく以外にない。そのための決断のタイミングを見極める力が重要になる。

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