九州の球磨川をはじめとした多くの地域で河川が氾濫し、多数の犠牲者が出た。「令和2年7月豪雨」と名付けられた先ごろの集中豪雨は「線状降水帯」と呼ばれる積乱雲が連なった細長い帯状の降水域が大量の雨をもたらしたことなどにより、大きな被害につながった。

 近年、豪雨被害は毎年のように発生している。昨年は「令和元年東日本台風」と名付けられた台風19号が強烈に記憶されている。阿武隈川や千曲川の堤防が決壊するなど河川の氾濫、堤防の決壊が相次ぎ、浸水面積は3万ヘクタール近くにも及んだ。その前にも「平成30年7月豪雨」「平成29年7月九州北部豪雨」などに見舞われた。

 もはや、こうした規模の集中豪雨は継続的に起こると覚悟すべきだろう。新型コロナウイルス感染症への対応が求められるなか、避難場所で「密」が発生するリスクも注目されるなど、災害発生時の取り組みの重要性は従来以上に高まっている。にもかかわらず、ブルーシートを敷いただけという以前のままの避難所もあるようで、自治体の対策の遅れは否めない。国はこのほど、水力発電や農業用水などに用途を限っていた「利水ダム」を、治水にも活用できるよう運用を見直し、貯水能力を倍増させる施策も打ち出した。農業用ダムは農林水産省、治水・利水ダムは国土交通省、発電用のダムは経済産業省が所管するという縦割り行政の弊害を打破したもので、遅すぎた感はあるが評価すべきだろう。

 さらなる治水対策は喫緊の課題だが、ダム建設も堤防の強化も、数十年単位の膨大な時間と費用を要する。避難所建設や避難の仕方を含めて、できることを一つずつやっていくほかはない。道路や上下水道などの維持費軽減や交通弱者保護につながるコンパクトシティー構想も対策の一つとなろう。

 雨水貯留槽の整備も対策となり得る。一つひとつは小規模でも、数が増えれば貯水能力は無視できない。雨水貯留浸透技術協会によると、これまでに施工された地下貯留槽は1000万立方メートル。その8割が軽量で重機が不要など建設負担の少ないプラスチック製だ。宅地造成やショッピングセンターの建設などの開発行為に際し設置することが求められており、容量は年々拡大している。元来がゲリラ豪雨による冠水対策製品であり、大型ダムなどと比べて能力に限界はあるが、低コストかつ短工期で設置できることは魅力。地下貯留のため、上部をさまざまな用途に有効活用できるメリットも生かし、相対的に短期間で行える対策として設置拡大を加速するべきだろう。

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