資源循環型社会の形成を目指して化学企業が一斉に動き出したが、資源回収やリサイクルの仕組み作りには地域社会の協力が欠かせない。日本は欧州などと比べ環境意識が低いとの指摘もあり、化学産業には出前授業などの啓蒙活動も期待される。市民が「我がこと」として資源循環の取り組みに参加するためには、身の回りの温室効果ガスの見える化や、各種統計による実態の可視化で、その意欲をかき立てることが重要だ。

 製品ライフサイクルの見える化については、多くの企業がカーボンフットプリントの算出方法を開発したり、デジタル技術を駆使した算出プラットフォームの構築に乗り出している。身の回りの製品の組成のトレーサビリティー(追跡調査)が可能となれば、どのような原料を用いて、どれだけの温室効果ガスを排出して生産されたものなのかが分かり、回収やリサイクルの動機付けにつながるはずだ。

 さまざまな統計も、より詳細に、踏み込んだ情報が提供されることで人々の理解と関心を高めることにつながる。この点、プラスチック循環利用協会が先ごろまとめた「2020年のプラスチック製品の生産や廃棄、再資源化、処理処分の状況」は示唆に富むものと言えるだろう。

 毎年データを更新しているもので、今回はプラスチックのマテリアルフローの精度を向上させるため、マテリアルリサイクル(MR)量や再生樹脂の輸出量を見直したのが特徴。使用ずみ製品由来のMRについては、より詳しい内訳を得るために推算スキームを更新。従来の手法がMR量を4万~5万トン過大評価していたことが分かった。学校単位で回収の取り組みが進むPETボトルのキャップを、新たに項目に追加するなど内容の充実にも努めている。

 MR品の輸出については、18年の中国の廃プラ輸入規制強化によりプラくず輸出が大幅に減少したが、その後どうなったかという疑問があった。今回、貿易統計では把握できないペレットなどの再生原料のかたちで輸出されるケースが増大しているものと推察。結果、20年の再生原料輸出量は62万トンに達し、中国の廃プラ輸入規制強化直後に強まったプラくずを、中国以外の国々へ輸出する動きが徐々に弱まるなか、国内で再生原料化して輸出する動きが強まっている実態を明らかにした。

 資源循環社会の構築に役立つのは高度な技術開発ばかりではない。身近な製品の組成を可視化したり、毎年出される統計を、より踏み込んで解析したり、分かりやすく伝えることで市民を巻き込むといった活動も、化学業界に期待される役割の一つだ。続きは本紙で

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

 

社説の最新記事もっと見る