農林水産業や食品製造業の作業安全を、どのように確保するのか-。新しい対策のあり方について農林水産省が検討を始めている。産業として高い成長を続けていた時代と異なり、就労者の高齢化、人手不足、外国人材や非正規従事者の増加など、これら産業を取り巻く情況が変化し、作業安全に対する取り組みにも見直すべき部分が出てきた。今回の検討は多角的な視点から考察を行い、若者が自らの未来を託せる産業としての姿を描くことを目的としている。農林漁業は国を支える産業の礎である。個々の事故要因の分析・調査のデータ化、作業省力化につながるスマート技術やドローン、センシング技術の導入など先端技術をフルに活用。リスクの高い作業をロボットやデジタルシステムへ置き換えれば、事故発生が抑制できるだろう。柔軟な発想・意見を反映し、施策へとつなげてもらいたい。
 2018年の農林漁業就業者数は228万人と、50年間で約6分の1に減少した。全産業就業者に対する割合は3・4%。そのなかで農業・林業・漁業の高齢者の死亡事故発生率は全産業平均と比べて高い。うち農業では、死亡者の約85%を65歳以上が占めた。一番多い事故が乗用型などのトラクター関連で約40%。一方、林業・漁業・食品産業では、60歳以上の死傷災害発生が約3割で推移している。これらの統計から言えるのは、高齢者に重点を置いて作業安全対策を進めるべきということだ。農水省の有識者会議は、2月下旬に初会合が開かれた。続けて会合を重ね、20年度中に一定の結論を得る予定である。
 なお、非正規従事者の比率は15年の統計によると、食品製造業が約47%に及び、農業約10%、林業約17%。外国人の割合も上がっている。
 農水省では先月、農業機械作業の事故による22年の死亡率を17年(211人)比で半減させる目標を公表した。乗用型トラクターの安全フレームの追加装備や買い換え、シートベルト・ヘルメットの装着呼びかけ、横転疑似体験、事故分析体制の構築による情報の収集・分析など20年度から取り組みの強化を図る。会合メンバーである味の素では、工場での機械巻き込まれ災害防止のための保護カバーの設置、心拍、体温、転倒情報をキャッチするバイタルセンサーの導入などが進んでおり、国内での事故は減少傾向にある。
 啓発、事故分析、対策メリットの見える化などによって作業者の安全意識を向上、併せてハイテクの導入を図ることで事故を減らすための環境づくりが進むだろう。業種を越えて大きな潮流になればと思う。

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