国土交通省が、このほど「運輸防災マネジメント指針」を策定した。運輸事業者が防災体制の構築と実践に取り組む際に参考となる考え方をまとめたものだ。自然災害への対応力を向上するため、事業者において全社的な取り組みが促されることが期待される。

 近年、自然災害が頻発・激甚化する傾向にある。そのなかで運輸事業者の被害を軽減・防止し、業務活動を継続させる、あるいは早期回復を図ることは、国民生活や社会経済活動を維持していくうえで不可欠となっている。多数の鉄道車両水没や、交通アクセスの停止により大勢の旅客が空港施設に取り残されるといった被害が記憶に新しい。

 また地球温暖化による気温上昇が最大となるシナリオでは、今世紀末の洪水発生確率は過去(1951~2011年平均)と比較して約4倍と予測されている。いつ起きるのかといわれる南海トラフ地震や首都直下地震など巨大災害のリスクも懸念される。さらに目下の新型コロナウイルス感染が拡大している局面で、自然災害への対応を誤ると、ますますリスクを増幅させかねない。

 06年に制度化された「運輸安全マネジメント」では、ヒューマンエラーのみならず自然災害も対象とされていた。自然災害の頻発化や激甚化も踏まえて、17年には運輸安全マネジメント評価の基本的な方針および「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン」の改訂に際して「自然災害への対応についても今日的課題ととらえ、的確に対応すべき」と明示されている。

 今回の指針は、17年のガイドラインに自然災害の対応についての解説を加えることによって、運輸事業者が参考とすべき考え方をまとめた。策定にあたって防災分野の有識者からヒアリングを行うとともに、運輸審議会運輸安全確保部会からも意見を募った。

 指針では、自然災害にどう対峙するかという危機管理に加えて、事業継続に要する経営資源の配分、優先事業の絞り込みなどの重要な経営判断をともなうため経営トップの責務を強調。被災時に最も重要なのは迅速な初動であることは自明である。遅れれば遅れるほど被害が拡大するだけに、トップダウンによる全社的な危機管理体制が重要としている。

 国内各地域には中堅・中小の運輸事業者が数多く存在する。地域経済の維持あるいは被災時の早期復旧・再開のため、こうした事業者においても経営トップの率先した決断が問われることはいうまでもない。

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