新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が突きつけた日本の問題の一つに「海外依存」がある。ワクチンや治療薬だけでなく、PCR検査をはじめとする遺伝子検査も同じだ。昨年春のパンデミック時は検査薬が不足する事態に発展した。次の新興感染症に備えて、試薬や装置の国産化だけでなく、世界を先導する革新技術を日本が創出できれば、大きな事業機会をつかめる可能性がある。

 コロナなどに使う遺伝子検査は、対象ウイルス特有のDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)を増幅して検出するもので「核酸増幅検査」とも呼ぶ。代表的なPCR法をはじめLAMP法やTRC法など測定原理は複数存在し、いずれも高精度にウイルスを検出できるため、コロナのような新興感染症の診断に向く。

 核酸増幅検査は、呼吸器感染症やノロウイルスなどの検査に使われてきたが市場は小さい。この局面を変えたのが新型コロナウイルスだ。厚生労働省の集計では、5月4日までに実施されたコロナPCR検査(他の測定法も含む)は延べ約1272万件に上る。矢野経済研究所によると、2020年度に360億円のコロナ遺伝子検査市場が形成された。

 臨床検査センターや大規模病院などに限られていた検査装置は多くの医療機関が導入し、PCR検査の最大能力は1日20万に達した。厚労省が製造販売承認した核酸増幅検査薬は4月時点で計28品に上り、研究用試薬を使い、自費検査を提供する検査機関も増えている。東京商工リサーチの調べでは、PCR検査などを扱う検査関連企業は3月末に138社と、1年前に比べて56社増えた。

 長らく指摘されてきた検査体制の充実に一定成果が見えた一方、「海外依存」という課題は残ったままだ。検査薬や装置だけでなく、検査薬に用いる原料も海外に依存していることが分かってきた。検査薬・装置を扱う日本企業が増えても根本的問題に解決策を見出せてない。

 日本医師会COVID-19有識者会議は、国産の装置や試薬の供給体制の拡充が国策として必要と訴える。化学会社や臨床検査薬大手は原料から検査薬まで国産化に取り組み始めた。また検査薬の原料は各社が共通して利用するケースも多いといわれ、企業連携で共通化すれば産業競争力の強化につながる。

 コロナワクチンとして実用化されたメッセンジャーRNA。米国は黎明期から投資を続けてきたからこそ商機を得た。研究機関やベンチャーが抱える有望技術を目利きし、継続投資していくことも欠かせない。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る