多くの経営者が「価値提案型」の事業モデルを志向している。そのためには新素材の開発、生産プロセスへのデジタル技術活用などイノベーションが不可欠だ。当然だが、その付加価値を顧客に正しく提示し、製品価格に反映させることが重要なことは言うまでもない。消費者ニーズと企業の利益目標の双方を満たす価格を設定するバリュープライシングの重要性は一層高まっている。

 ドイツに本拠を置く経営戦略コンサルティング会社であるサイモン・クチャー&パートナーズは「化学業界に求められるバリュープライシングの実践」と題したレポートをまとめた。そのなかで「イノベーションにおけるボトルネックは、この価値を値付けするプライシングの難しさだ」と指摘している。

 レポートでは、バリュープライシングを改めて考えるうえで重要な5つのルールを挙げている。まずは「顧客の支払意思を価格に反映させる」こと。それには安定的に優れた品質、良心的な価格、電話で技術サポートを受けられることが重要と指摘している。2つ目が「万能なソリューションは存在しない」ことであり、そのため多様な選択肢を用意して顧客自身に選択させるなど、ユーザー立脚型を強調した。

 またキログラムやトン、リットル単位で価格が設定される「伝統的な収益モデル・価格指標からの脱却」が必要であると指摘。製品の価値を構成する要素に基づき価格を設定することで、初めて大きな付加価値を収益化することが可能になるとしている。

 さらに「勝てる価格戦略の構築」に向けて価値、価格、コスト、販売量の4つの情報を基に、低価格製品による市場浸透戦略、あるいは高価格製品で先行者利益を得る戦略の、いずれをとるべきか意思決定する必要があるとした。

 最後に「製品・サービスの特徴ではなく、顧客にとっての便益をコミュニケーションする」ことを挙げた。顧客にとっての便益を定量的に表現している価値提案は強力であり、提供価値の訴求は実際に価値を提供するプロセスと同じくらい重要とした。自社の提供価値を説得力のあるかたちで伝えるには、セグメントごとに打ち出すメッセージをカスタマイズし、またモニタリングしながら継続的に改善していく必要があると強調している。

 顧客自身が差別化を求めるなか、ニーズは多様化している。そこに立脚した事業を各社は追求しており、バリュープライシングの重みは増す。基本となるのは顧客重視であり、事業戦略の基本を実践することである。

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