経済産業省がグリーンイノベーション基金を用いた国家プロジェクト「製鉄プロセスにおける水素活用」に関する研究開発・社会実装計画を策定した。同時に策定した「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」とともに基幹産業の原燃料転換による脱炭素化に向けた取り組みであり、2050年カーボンニュートラルに向けてオールジャパンの研究開発が動き出す。計画では、高炉を用いた水素還元技術(高炉水素還元技術)と水素で低品位の鉄鉱石を直接還元する技術(直接水素還元技術)の実現を目指すとしており、その経済波及効果は世界規模で50年までに約40兆円と推計している。世界に先駆けてイノベーションを実現することで、脱炭素社会においても技術優位性を確保することを期待する。

 鉄鋼業は全産業部門の40%のCO2を排出しており、その脱炭素化はカーボンニュートラルに向けて解決すべき課題の一つ。現行の高炉法はエネルギー効率、生産効率、生産品質(高級鋼製造)、原料条件(豪州産等の低品位鉄鉱石が利用可能)の面で優れる一方、コークスを用いて還元する過程で不可避的にCO2が発生する。そのため鉄鋼業でのカーボンニュートラル実現には、原料や還元剤において化石燃料から脱却する、製鉄プロセスそのものの抜本的な転換が必要だ。

 鉄鉱石の還元に、炭素ではなく水素を用いる水素還元製鉄の研究が各国で進められているが、世界的にも実用化の例はまだ無い。すでに生産量で中国に大きく差をつけられている日本の鉄鋼業だが、今回の計画により世界に先駆け水素還元製鉄などの超革新技術を確立し、グリーンな高級鋼に特化して生産・供給する体制を構築することで「勝ち筋」になれるとしている。

 製鉄プロセスの抜本的転換には長期の開発期間と膨大な費用を要する。また安価(約8円/ノルマル立方メートル)かつ大量(約700万トン)の水素供給基盤の構築が不可欠だ。社会インフラ整備と併せた取り組みが求められる。海外ではアルセロール・ミッタルや宝武鋼鉄集団、POSCOなどの大手企業が同様の開発を進めており、国際競争力の確保の点からも遅れをとることは許されないだろう。

 基礎素材である鉄鋼の競争力は、自動車や機械・装置をはじめ、使用する製品の競争力にも大きな影響を及ぼす。今回の計画でも技術開発とともに、製品に含まれるCO2の計算方法の確立や環境価値に関する評価制度づくりなどグリーンスチール市場創出に向けた取り組みや、需要側への制度的措置を含む導入促進策の検討を謳っている。

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