国内高炉各社が2050年のカーボンニュートラルに向けた脱炭素化の取り組みを加速させている。電炉技術の利用拡大や水素還元法の開発・実用化など、CO2排出削減を可能とする製造プロセスへの転換を目指すもの。その事業規模からプロセスで使用される黒鉛電極や水素などはもとより、CCU(CO2分離回収・利用)として想定される化学品への転用など、産業全体に与えるインパクトは無視できない。世界最大の鉄鋼生産国、中国も60年のカーボンニュートラルを表明しており、グローバルに同様の変化が進むのは確実。既存のサプライチェーンをも変え得るだけに今後が注目される。

 実用化で先行すると思われるのが電炉技術の利用拡大。高炉でCO2発生量の約8割を占める鉄鉱石還元プロセスを、スクラップの利用拡大によって省くことができる。日本製鉄では、大型化による高効率化と自動車用鋼板といった高級鋼の量産を目指す。それには材質有害元素の無害化などの技術確立が必要。また商業化には、使用するカーボンフリー電力の低コスト・安定供給が不可欠だ。実現できれば国内で約25%、世界的には3割弱を占める粗鋼生産量における電炉比率が一気に拡大すると予想される。

 しかし革新的電炉技術が実現しても、グローバルで拡大する鉄鋼需要を賄うためには一定量の新規鉄源(銑鉄)が必要。そのため既存の高炉法で還元材をコークスから水素やメタンなどに置換する新高炉法と、鉄鉱石を水素で還元する直接還元法の開発が進められている。いずれのプロセスでもコークス代替の新たな還元材が必要になる。水素ならば、年間7000万トン程度の銑鉄生産量に対し、約750億立方メートルという膨大な量を確保せねばならない。

 この取り組みでは、JFEスチールが独自コンセプトのカーボンリサイクル高炉を発表した。新高炉法とCCUを組み合わせたもので、高炉から発生するCO2をメタンに変換して還元材として繰り返し使用する。同社では27年にプロセス原理の実証を完了させる方針だが、実現しても高炉単体のCO2排出量の削減幅は30%程度にとどまる見込み。余剰CO2についてはメタノールなどの基礎化学品として利用する考えだ。

 水素に関してはサプライチェーン構築に向けた取り組みが動き始めている。川崎重工業が世界初の液化水素運搬船を使って、豪州で安価な石炭から製造した水素を運ぶ実証実験を今年度後半には開始する。世界的な構造変化を見極め、チャンスとして、どう取り込んでいくか。すでに競争は始まっている。

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