鉄鋼業界が国内事業の本格的な構造改革に乗り出した。2月の日本製鉄に続いて、JFEスチールも高炉休止を含む合理化計画を発表。生産体制のスリム化と高付加価値品へのシフトを加速することでグローバル市場での生き残りを図る。2019年度の国内粗鋼生産量は、米中貿易摩擦による製造業を中心とした鉄鋼需要の低迷などによって、リーマン・ショック後の09年以来となる1億トン割れが見込まれる。中長期的には、人口減少による内需縮小と新興国での生産拡大や輸出市場における中国品の増加が確実視されており、市場環境の変化に応じた構造転換は必至だ。

 計画では、JFEスチールは約13%減となる年400万トン規模の粗鋼生産能力の削減を前提に、東日本製鉄所京浜地区の上工程を休止する。23年度をめどに高炉8基体制から7基体制に移行する計画であり、固定費削減など600億円の収益改善効果を図る。すでに発表している日本製鉄も、日鉄日新製鋼の呉製鉄所の全設備と和歌山製鉄所の第1高炉をはじめ、名古屋製鉄所の厚板ラインや日鉄日新製鋼の堺製造所のメッキライン、日鉄ステンレス衣浦製造所の圧延工場などを休止。粗鋼生産能力で年500万トン規模の削減を実施する。19年度決算では構造改革にともなう減損損失としてJFEスチールは2200億円、日本製鉄は4900億円を計上する。

 国内事業の合理化に先立ち、両社では海外事業の基盤強化に取り組んできた。JFEスチールでは、自動車用鋼板の拠点展開など日本からの原板供給を前提にした供給体制の整備や、インドや中国などの企業との提携を推進。日本製鉄も、インド企業の買収をはじめ、超ハイテン鋼板の供給体制強化や電磁鋼板能力・品質向上といった成長分野・地域への戦略的投資を実行しており、これら取り組みの進展によって国内事業の改革も可能となったと言えよう。

 粗鋼生産能力の削減などとともに、高度ITやデータサイエンスなどの活用によるデジタル化を推進する。日本製鉄は新たにデジタル改革推進部を設け、全社横断的課題への一元的対応および、これらの基盤となるデータマネジメントを強化する。JFEスチールも、サイバーフィジカルシステムや5Gの導入によるスマートファクトリー化などに取り組んでいる。

 構造改革の波は、すでに他の業界には及んでいる。環境変化への対応の遅れは致命傷となりかねない。持続的成長を可能とする事業体制・ビジネスモデルの構築に向け、取り組みを加速すべき時にきている。

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