関西には存在感を発揮するファインケミカル企業が数多い。長年培った技術・製品によりニッチな市場で確固たる地位を確立する一方、常にベンチャー精神を持ち、新たな分野にも積極的に挑戦する。その代表的な企業の一つが三洋化成だ。生活・健康、石油・輸送機、プラスチック・繊維、情報・電気電子、環境・住設関連など多方面に事業を展開するが、界面活性剤や高吸水性樹脂(SAP)を除けば、ほとんど汎用製品がない。しかし早くから1000億円以上の売上高を確保するなど、関西の中堅化学メーカーにとっては目標となる企業と言える。

 同社が昨年発表した日本触媒との経営統合は、業界を騒然とさせた。新型コロナウイルス感染拡大などの影響で統合予定を来年4月に延期したが、その準備の一方、将来の成長に備えた施策を相次ぎ実行している。その一つがリチウムイオン電池の主要構成物質を樹脂に置き換えた「全樹脂電池」の事業化。早期の量産技術確立、製造販売開始に向け、関係会社APB(東京都千代田区)が福井県越前市に量産工場を建設する。このほか板状の超軽量透明断熱材「SUFA」の事業化に取り組む素材系ベンチャー、ティエムファクトリ(東京都港区)に出資。高い断熱性を持ちながら軽量で高透明なSUFAの事業化を支援する。また医療、化粧品を含むライフサイエンス分野でも事業拡大を狙う。三洋化成が製造する外科手術用止血材の適用部位拡大が承認され、脳血管を除く血管全体の吻合部に適用が広がった。さらに同社初の化粧品ブランドの中国での販売を、越境ECモールで開始した。

 海外でも次の成長へつながる布石を打つ。タイでプラスチック用永久帯電防止剤の生産設備建設に着手したほか、自動車向け電着塗料用原料の本格生産を開始。韓国では潤滑油添加剤で世界4カ国目となる新たな生産拠点を立ち上げる。

 SAPの競争激化など厳しい事業環境の下、ここ数年、同社の業績も伸び悩む傾向にある。ただ売上高営業利益率は8%程度を維持し、自己資本比率70%以上、負債資本倍率(D/Eレシオ)0・08と、ほぼ理想的水準。無理に規模を追わず、強みが発揮できる領域へ経営資源を大胆にシフトさせている。日本触媒との経営統合においてもSAPに目が行きがちだが、高付加価値製品の競争力を維持しながら、いかに早く新たな事業領域を形成できるかが重要だ。ファインケミカル業界でも生き残りをかけた競争が激しくなるなかで、中堅化学企業が目指すべき絵姿ともいえる三洋化成。さらなる展開に注目したい。

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