近年、障がい者の就労が増加している。政府がさまざまな障がい者雇用対策を進めており、障がい者の雇用が着実に進展している。企業にとっても少子高齢化が進むなか、障がいの有無にかかわらず、多様な人材が活躍できる職場づくりに取り組むことが必須となっている。とくに2020年は、東京パラリンピックが開催され、障がい者を取り巻く環境に注目が集まることから、国、民間ともに、さらなる取り組みの深化が求められることになりそうだ。
 障がい者が働きやすい環境を整えるため、就労支援に向けた取り組みが活発化しているものの、実際の労働現場において障がい者に対する理解が浸透しているとは言い難い。しかし、そうした状況のなかでも障がい者雇用に積極的に取り組み、多様な人材が活躍できる職場づくりに力を注いでいる企業も多い。その一つがYKKグループだ。「障がい者が働きやすいことはすべての社員が働きやすいこと」との認識の下、各事業所・職場で働きやすい環境作りを目指している。一般的に特例子会社を設立し障がい者を集中して雇用する会社が多いが、同社はすべての会社・ユニットで法定雇用率を順守。障がい者雇用グループ(YKK、YKK六甲、YKK AP、YKKビジネスサポート、黒部クリーンアンドグリーンサービスの5社)においては19年は2・43%と、14年から各社で雇用率達成を継続中だ。
 YKKは、働きたくて働く力がありながら働く場の少ない、重い障がいのある人の就労を支援するため、特例子会社のYKK六甲(兵庫県神戸市)を設立した。1999年4月1日に操業開始し、印刷業をはじめ下げ札製作、SNSサイト運営、デジタル保存(アーカイブ)、書類保管、ビス袋詰めといった幅広い業務を手がける。職場では身体障がいや聴覚障がい、精神障がい、知的障がいなど、さまざまな障がいを持つ社員が働く環境に配慮した設計となっている。勤務形態についても、通勤が困難な社員には会社と自宅をネットでつないで仕事を行う在宅勤務や、就労開始・終了時間の変更、短時間勤務といった多様な働き方を支援している。同社が障がい者雇用・定着の見本となり、そのノウハウをグループ各社へ提供している。
 適切なサポートがあれば、障がい者も、障がいのない人と同様にさまざまな能力を発揮し、貴重な戦力として職場で活躍できる。障がい者雇用の問題は決してひとごとではない。障がい者の求職が増えるなかで国や自治体、企業が連携し雇用対策を総合的に推進していくことが、ますます重要になる。

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