政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの目標を掲げているが、さらに30年に向けて13年比46%削減する目標も打ち出した。この意欲的な目標の達成には革新的取り組みを盛り込むことが欠かせない。一方で従来からの延長線上にある地道な活動を一歩ずつ進めていくことも重要だろう。

 そのための法整備も進められている。今年3月に新たな「住生活基本計画」が閣議決定された。住宅ストックのエネルギー消費量の削減目標を引き上げ、30年までに13年比で18%減とする方針。日本のCO2総排出量約11億トンのうち、家庭部門は約14%も占めている。カーボンニュートラル実現には、家庭部門の大幅なテコ入れが必要なことは業界でも共通の認識だ。

 総務省統計局の「平成30年住宅・土地統計調査」の結果によると、既設マンションでは今なお83%に断熱性能の低い単板ガラスが用いられ、複層ガラスや二重窓といった高断熱の窓は2割に満たない。戸建て住宅でも6割が単板ガラスだ。しかし単板ガラス・アルミサッシの組み合わせでは暑い夏に家全体に流入する熱の76%が窓からで、冬も窓から57%が流出しているという。断熱材のリフォームなどに比べて比較的容易な工事で置き換え可能な窓リフォームで、大幅な省エネが実現できる。窓リフォームを促進していくことは家庭部門の省エネ推進に有効な手段と言えよう。

 実は以前はマンションの窓やドアといった開口部は共用部分と見なされるため、分譲マンションの持ち主が戸別にリフォームを望んでも実現困難だった。しかし16年の国交省の告示「マンションの管理の適正化に関する指針」を受け、マンション標準管理規約が改定されたことで開口部であっても防犯、防音、断熱などの住宅の性能の向上などに資するものについては、理事会の承認を受けることにより所有者の責任と負担において戸別に改修できるようになった。建材業界にとって新たな市場の創出となるものだ。

 これを受けてYKK APが今年4月、マンションの窓を手軽にリフォームできる商品を発売した。足場を作ることなく室内側からのみで施工、短時間で工事を終えられる。このためリフォーム業者やサッシ流通店から、強い期待を受けているという。こうした商品展開が可能となったのも国交省の告示があったから。法律や慣習が壁となって有効な手段を取れないケースはほかにもあるだろう。官民が連携して旧弊を打破し、少しずつでも地球環境の保全につなげてほしい。

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