社会課題を解決する製品の開発は落としどころが難しい。新型コロナウイルスとサステナビリティが絡むと、とくにそう思う。営業難に苦しむ飲食店を救おうと、凸版印刷とサントリー酒類が、理化学研究所の飛沫飛散シミュレーションを基にフェイスシールドの作製に取り組んでいる。飛散抑制には布マスクが最も効果的。だが互いの顔を見ながら安全に会食したい。このため眼鏡として掛けられ、鼻から顎までを覆う格好の透明樹脂製の設計とした。理研の研究結果を踏まえたものだ。
 飲食する際、鼻から口の部分をワンタッチで開けられるようにしたアイデアも光る。苦境の続く飲食店にとって年末のかき入れ時は挽回のチャンス。その助けになるものと期待したい。これらコロナ対策製品は、人々の心理的ストレスを軽減させる意味でも重要である。
 一方、ここにサステナブルの視点が入ると、どうなるか。フェイスシールドは、主にABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)など樹脂製である。プラスチックに新たな需要が増えることは、海洋プラスチックごみ問題を抱える化学業界にとって手放しで喜べない複雑なものになった。このフェイスシールドにはバイオマス樹脂の採用やリサイクルなどの視点は今のところみられないが、それは普及のしやすさを前提にしているからでもある。サステナブルに配慮した素材選択やエコシステムの構築にはコストを要し、採用拡大のネックとなる。サントリー酒類も凸版印刷もサステナブルに対し積極的姿勢をみせるが、コロナは待ってくれない。一方で飲食店の苦境を一刻も早く救いたいとの思いもある。
 製品が良くても、高価格で普及が進まなければ実効性を持てない。これはコロナやサステナブルが言われる以前から潜在するモノづくりのテーマだった。すべての要求を満たすモノづくりの理想の追求と、コストなど現実面の妥結点は、どこにあるのだろうか。今回の取り組みにもみられるが、問題解決のカギはデジタルだ。
 理研は、シミュレーションにスーパーコンピューターの「富岳」を使い、既存スパコンより短時間で成果を得た。またフェイスシールドの設計データは無償公開する方針で、これもデータ社会における共存の理念を示してくれた。このデータを使えば3Dプリンターでも造形可能という。受注に合わせて生産できる3D造形は物流ロスを減らせるし、カスタマイズも容易である。課題の難易度が上がる一方で悩むことの多い時代だが、デジタルの力が助けになるのは間違いなさそうだ。

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