ドイツの化学産業を取り巻く事業環境が厳しさを増している。「医薬品を除く2022年の化学品生産が前年比4%減少する」というドイツ化学工業協会(VCI)の見通しは、困難な状況を裏付けるデータの一つである。

 原因の代表は天然ガスの供給不安だ。22年の生産見通しを発表した際、VCIは「化学産業はロシアからの供給削減に対する多様なシナリオを準備している」と表明した。生産を取りやめるプラントが出ることも想定していると思われる。ただ問題解決は容易ではない。クリスチャン・クルマン会長(エボニック インダストリーズ会長)は「誰もこれ以上、石炭火力発電所を望まないだろう」と述べたうえで「(石炭火力発電は)一時的なガス不足への対処に役立つ」と付け加え、苦しい胸の内を明かした。

 さらに物流の混乱も不安材料になっている。VCIによると、原料や製品の鉄道輸送がひっ迫状態にあるという。鉄道網の刷新・拡大に向けたプロジェクトが進められており、貨物の輸送が制限されることがあるためだ。VCIは「ドイツ鉄道の貨物部門から20%をトラック輸送に切り替えるよう提案されている」としているが、ドライバーの不足や燃料高騰などでハードルは高い。

 物流面では、ライン川の水位低下の影響も懸念されている。ライン川は言うまでもなく、化学品物流の中核。通常であれば水位が下がるのは9~10月とされているが、現地メディアなどが報じたところによれば、今年は早くも7月に積載量の制限を余儀なくされるほど水位が低くなっている。鉄道・トラック輸送へのシフトもハードルが高いのは前述の通りである。

 最近では18年に水位低下の影響が顕著だった。この時は原料手当てに支障をきたし、生産調整を強いられた企業もあった。忘れてならないことは、ライン川の水位低下はドイツ企業だけでなく、欧州北西部の企業の活動に影響が及ぶことだ。
 クルマン会長は「現時点でエネルギー、原材料コストの顕著な緩和はみられない。天然ガスは世界の他の地域よりも、かなり割高な状態が続くと思われる。このような背景からドイツにおける産業立地は、エネルギー集約型の産業に限らず、ますます競争上の問題に直面するようになっている」と述べている。

 競争上の問題は、天然ガス価格の高騰と、それに起因するエネルギー・原料コストの動向だけでなく、物流に由来する要因によっても生じる。したがって鉄道輸送やライン川の水位の先行きも看過できない課題となっている。

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