運輸部門のCO2排出量は日本全体の約2割を占めている。2050年に温室効果ガス(GHG)80%削減という政府目標に合わせ、日本車1台当たりのGHG排出量を10年比で8割程度削減するという方向性が、このほど開催された経済産業省のグリーンイノベーション戦略推進会議で打ち出された。究極の目標として「Well to Wheel Zero Emission」(油田からタイヤ駆動までCO2排出ゼロ)にチャレンジするものだ。実現には電源、水素源のゼロエミ化が前提となるが、自動車の電動化、自動走行などのスマート化が不可欠。自動車業界だけでなく、機械、電機、化学、エネルギーなどの各業界に大学や研究機関を含めた総力戦となる。
 今年1月に閣議決定された革新的環境イノベーション戦略では、運輸部門のGHG削減量目標を110億トン以上とし、多様なアプローチによるグリーンモビリティの確立を目指すとされた。具体的には①自動車・航空機などの電動化②燃料電池システムなど水素を燃料とするモビリティの確立③カーボンリサイクル技術を用いたバイオ燃料・合成燃料の製造・使用技術-の3テーマに取り組む。
 電動化に求められる技術開発は①安全性に課題のある現行リチウムイオン電池に代わる電池として、高エネルギー密度化と高安全性の両立が可能な全固体リチウムイオン電池②構成材料や動作原理が異なりエネルギー密度、安全性、耐久性を飛躍的に向上させる革新型蓄電池③窒化ガリウムなど次世代半導体を用いたパワー半導体-の3つを課題に掲げている。
 燃料電池システム、水素貯蔵システムなど水素を燃料とするモビリティの確立では、30年ごろの実用化に向けて、燃料電池における大型車両用超高耐久MEA(膜電極接合体)の開発、白金触媒の使用量大幅低減、水素貯蔵タンクの炭素繊維使用量削減などに取り組む。
 これらのテーマからみえてくるのは、現在のガソリン車とはまったく違う自動車を開発しようという考えだ。自動車産業とは別の、電動自動車産業を新たに作り上げることにつながる。個々の技術テーマをみれば日本が得意な分野が少なくなく、擦り合わせのノウハウも生きてくる。産業界、学会の英知を結集すれば世界をリードする産業に育てられるだろう。
 化学産業は自動車部材の高強度化、軽量化に貢献した実績がある。電動自動車においても蓄電池材料や半導体材料の開発で大きな役割が期待される。日本の化学産業の底力をみせる格好の機会といえる。

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