事業運営のキーワードの一つに「現地化」がある。海外の顧客ニーズに応え、市場を開拓するには、まず現地に拠点を設けて人員を配置する。そこに生産拠点や技術開発拠点が加われば「営業・生産・開発」の一体体制が整い、海外市場が攻略しやすいという考え方だ。ただ先端の半導体材料をみると、日本での生産にこだわり、輸出で対応するメーカーも多い。人、設備など万全の体制が整う国内生産こそが、最大の価値提供となるからだ。

 現地化という考え方の前提は「現地ならではの顧客ニーズ、市場がある」ということだろう。地域の独自ニーズをくみ取るには、現地に入り込み、近い距離できめ細かく対応することが求められる。

 例えば自動車市場。欧州や北米、中国など各地の自動車メーカー、部品メーカーと関係を築き、顧客ニーズを満たすべく多くの素材メーカーが現地化を進めた。環境意識の高い欧州車のニーズに応える一方、センサーや自動運転の開発が進む北米自動車のオーダーにも応えるためだ。同様に、中国にも独自の自動車文化・設計思想がある。

 素材メーカーからみると、営業拠点から技術開発、生産拠点まで、幅広く拠点を持つメーカーほど現地化が進んでおり、市場開拓が有利とされる。各メーカーが口を揃えるのは「日本と同様の体制を現地に作る」ということ。日本に頼らず、全てを現地で完結できればスピーディーに物事を進めることができる。

 半導体材料メーカーの考え方が異なるのは、本当の意味で、日本同様の体制を海外に構築するのが難しいからだ。営業・生産・開発の各拠点を設けることはできても日本と同じ数の人員、装置類を配置し、評価からエンジニアリングまで同じクオリティーを再現するのは不可能に近い。

 市場環境の側面も大きい。自動車と違い半導体製造は世界共通のルールが有り、地域やユーザーによりニーズが様変わりするわけではない。先端のフォトレジストなどはボリュームも小さく、輸出で対応しやすいという面もある。

 台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスンといった海外のユーザーが「日本製」「日本品質」に価値を見いだしたことで、日本の技術が流出せず、技術が磨き抜かれたともいえよう。ただ足元ではBCP(事業継続計画)や日韓貿易摩擦の影響から現地化を進める動きも出てきた。半導体チェーンの自国化を進める韓国や中国では、ローカルの半導体材料メーカーが育ちつつある。「日本ブランド」を守るために、どこまで現地化すべきか。慎重な判断が求められている。

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