農水省が策定した「養殖業成長産業化総合戦略」に基づく技術開発が、2021年度から養殖業成長産業化推進事業をはじめ複数の事業で実施される。日本の養殖魚は、品質、美味、新鮮さの保持など海外市場でも評価が高く、優位性を発揮できるポテンシャルがある。水産資源の減少が明らかになった段階になってからの戦略の実行は出遅れ感は否めないが、加速度を上げて技術開発に取り組み、世界に誇れる先進的で持続可能な水産養殖業へ発展を望みたい。

 日本の養殖生産は75%が海面養殖だが、水産収穫量全体の約24%にすぎない。高コストな飼料代や、需給バランスが崩れやすく価格も不安定になりがちといった問題がある。昨年7月策定された総合戦略は、基本戦略として国内市場向けと海外市場向けに分けて成長産業化に取り組むことやマーケット・イン型養殖業への転換を掲げ、そのために餌・種苗、生産、加工、流通、販売、物流など各段階の連携・連結する仕組みを整え、養殖のバリューチェーンの付加価値を向上させることを決めた。またブリ類、マダイ、クロマグロといった戦略的養殖品目の設定、さらに成果目標として30年までにブリ類で生産24万トン・輸出目標金額1600億円、マダイで同11万トン・同600億円などと品目ごとの数値を定めた。4月からの21年度事業では、戦略的養殖品目ごとの行動計画策定に必要な調査・分析、生産コスト削減への低価格・高効率飼料や純国産魚粉代替原料の生産技術の開発、カンパチの優良親魚の確保による種苗の国産化、貝類の自然・環境に適した養殖のためのICTを活用した管理手法の開発など推進する。

 養殖業成長化の動きは農水省だけではない。今月、科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業に「築地銀だこ」を展開するホットランド(東京都中央区)によるマダコの完全養殖の技術開発・実施プロジェクト(代表研究者・西川正純宮城大学教授)が採択された。タコは国内消費の6割が輸入だが、水産資源の減少と欧州、アジアでの需要拡大から輸入量が減少しているという。また横浜市立大学や慶応大学などで、AI(人工知能)によるクロマグロの良質な種苗生産技術の開発も進む。

 地球規模での気候変動や海洋環境の変化、世界の水産物需要の増加などによる水産資源の減少は、海に囲まれている日本にとって重要な問題である。水産物の国内需要の喚起、海外需要への対応には、国全体で一層の安定供給につながる技術の開発や生産流通体系の構築に力を注ぐべきである。養殖漁業、栽培漁業への期待は大きい。

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