人工知能(AI)が情報通信技術(ICT)の中核的技術になったとされている。チェスや囲碁で人を打ち負かし、自動運転を実現する技術と期待され、一般にも身近に感じられるようになった。一方で巨大IT企業によるデータ独占の弊害も懸念され始めた。日本のAI技術は米国のGAFAやマイクロソフトに何周も遅れ、中国企業と比べても存在感が薄い。日本は米中の巨人に正面から挑むのではなく、得意とするすり合わせのサプライチェーン(SC)を構築しながら、課題先進国らしく世界に先駆けてさまざまな課題解決に当たり、人に優しい用い方を追求してほしい。
 AIの開発・活用で先行するGAFAは、AIに関するシーズ、ニーズ、データ、計算装置をすべて一手に賄っており、寡占化が進んでいる。ビッグデータを集めて解析するその事業モデルは、ジョージ・オーウェルが「1984年」で描いた情報管理社会を連想させ、警戒感も引き起こしている。
 日本のAI技術開発はGAFAに太刀打ちできる状況にはない。しかしAIの適用が期待される分野は膨大にあり、日本らしい活用分野を見いだせば活路は開けるはずだ。
 産業技術総合研究所の辻井潤一人工知能研究センター長は、AIに関するニーズ、シーズ、データを持つ者が集まって技術開発、用途開拓を進めるオープンなエコシステムを構築するのが日本が目指す方向性と指摘している。自動車や電機などの分野で有効性を示したすり合わせのSCと似たモデルだ。同センターは、そのエコシステムの中核を担うべく、世界最高レベルの計算装置を備えている。
 産総研が中心となって2015年から進めている新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクト「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」では、人の手に近いロボットハンドの実用化など複数の成果が現れている。得意とする分野でニーズが高い応用技術を開発できれば、日本も存在感を示せるのではないか。
 化学産業においては、老朽化が進むプラントに対する保全技術や、新規材料を効率的に開発するマテリアルインフォマティクス(MI)の分野への適用が期待されている。業界には豊富なデータ、ノウハウの蓄積がある。個々の企業の競争力にかか
わる問題もあるだろうが、可能な限りオープンな開発、実用化を進めることを望みたい。海外企業も含めて参加できるプラットフォームを構築し、基盤となる技術、ノウハウを共有化することが、その応用技術の開発促進につながるだろう。

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