DSMはマテリアル事業の戦略的見直しに乗り出す方針を発表した。売却を含めた選択肢を検討する。これによって健康・ニュートリション・バイオサイエンスの各分野に経営資源を集中する企業に転換することになる。

 DSMはオランダ南部のリンブルフ州の石炭を採掘することを目的に同国政府によって1902年に設立された。設立当時の社名「Nederlandse Staatsmijnen」の英語訳である「Dutch State Mines」を用い続けてきたが、120年に近い歴史を紡ぐなかで、手掛ける事業は時代に対応して変化してきた。

 1919年にコークス炉ガスを利用した肥料事業に参入したことから事業転換の歴史は始まった。52年にカプロラクタムの生産を、59年にポリエチレンの生産をそれぞれ開始、石油化学事業の拡大に乗り出した。一方で73年には同社にとって最後の炭鉱を閉鎖し、創業時の事業である石炭から撤退した。

 転換の速度が増したのは89年の株式市場への上場からである。石化事業から撤退し、ロシュのビタミンなどの事業やオメガ3多価不飽和脂肪酸などを手掛ける複数の企業などを相次ぎ買収。一方で肥料やメラミン、カプロラクタムなどの事業から手を引いた。最近では経営資源を集中することを決めた分野を強化するための買収を相次いで具体化している。

 今回の方針を発表したのは9月14日。13日の株価は176・95ユーロで、発表から一週間後の21日には185・5ユーロに上昇している。8月13日の株価は177・65ユーロで9月13日とほぼ同水準だった。マテリアル事業の見直しが市場から好意的に受け止められたことがうかがい知れる。

 DSMの歴史をみると、石炭採掘企業から化学企業へ、国営企業から民営企業への歩みを経て、上場後は健康、栄養、材料の分野で科学的知見に基づくソリューションを提供するグローバル企業へと変わってきたことが分かる。

 マテリアル事業は、ポリアミドと超高分子ポリエチレン繊維「ダイニーマ」が主力。2020年の売上高は約15億ユーロ(約1950億円)に達する。有力な事業であるが、健康・ニュートリション・バイオサイエンスに特化する戦略では、マテリアル事業の潜在的な強みを最大化できないと判断したものとみられる。

 DSMの事業ポートフォリオは、マテリアル事業の戦略的な見直しを通して新たなステージに向かう。変貌を続けてきた同社が、これからどのような姿になっていくのか、注視に値する。

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