事業を拡大するためには、競合関係にある企業がまねのできない製品やソリューションを提供することが重要だ。同時に長く取引関係にある顧客との関係を維持・強化することに加え、新規顧客の獲得も欠かせない。マーケティングや営業を担当する人たちが、いつも腐心することだろう。
 新規の顧客獲得のための手法として欧米の化学企業が注目するのは電子商取引(EC)だ。情報技術が発達したことで、これまでにない充実したデジタルチャネルを作り上げることが加可能になり、それを活用できる人たちも、さらに増えている。
 そうした技術を生かす取り組みが広がっている。自社のポータルサイトを通して製品を販売したり、EC事業を手がける企業を設立したりと事例は多い。自社サイトを用いた販売額が大きいのはダウ。シリコーンなどを手がけるコンシューマー・ソリューションズ事業部の売上高は、2018年にすでに25億ドルに達し、19年は30億ドルに近づいた模様だ。同社では使い勝手が良く、顧客との間の有力なインターフェースとなるウェブベースの販売を、すべての事業領域で拡大したいと考えている。
 ケマーズも自社のサイトを通して酸化チタンを購入できるようにした。19年4月から米国でスタート、10月初めからグローバル展開している。酸化チタンメーカーでは初めての試みとみられる。酸化チタンは市況が変動することが多い。これに対しサイトでは、例えば一カ月先に必要な量や価格水準を精査して発注することが可能。顧客は、より安定した生産活動を行えるといった利点を享受できる。
 ランクセスは「CheMondis」、コベストロは「Asellion」を、それぞれ設立してECによる化学品の販売を始めた。いずれも出資会社から独立して事業展開している。CheMondisは独立性を十分に担保した結果、取引額のうちランクセス製品の割合は10%程度という。この実績から、多様な化学品サプライヤーがCheMondisを通して取引をしていることが分かる。
 CheMondisによると世界の化学品市場でオンラインによる取引額は20%程度。伸びしろは大きい。地域別ではアジアが最も多い。アジアは最も成長している化学品市場であり、今後の事業拡大に向けてECは重要なツールの一つになると思われる。
 新たな可能性を切り開く取り組みには課題が付きものだ。一朝一夕に期待通りの成果を出すことは難しいかも知れないが、挑戦する価値が大いにあることは間違いない。

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